婿取りのおみつが頭巾取り去れば髪は無残に娘の尼に #文楽ネタ短歌

いつになく後を追う子をそのままに寺子屋を去る寺入りの母 #文楽ネタ短歌

師の留守に寺入りの子やって来て寺子らどっと煮しめ群がる #文楽ネタ短歌

静打つ鼓にあわせ飛んで出る鼓になった二親慕い #文楽ネタ短歌

二つ玉逃れ猪走り去る勘平の前に残る身替り #文楽ネタ短歌

堤から船送り出すおみつ尼　駕籠で久松大坂かえり #文楽ネタ短歌

弾くたびに阿古屋の音色揺るぎなく胡弓のうなり庄司うならせ #文楽ネタ短歌

書き置きを順々に読む親たちの中の我が子を三勝見つめ #文楽ネタ短歌

威勢よく鳴き声あげる鶏は立田前の遺骸を前に #文楽ネタ短歌

老いた師と向き合う唐木　年月を遠州行燈静かに照らす #文楽ネタ短歌

餌みする白鷺のごと足止めて雲助の声沼津を進む #文楽ネタ短歌

顔さえも知らない父が目の前にいるとも知らず死に行く信夫 #文楽ネタ短歌

大将が扇かざして実検す母が見つめる公達の首 #文楽ネタ短歌

父の留守　庭の桜は折れ倒れ戻った父は何にも言わず #文楽ネタ短歌

一番に八重佐太村へ晴れやかに遅れて春と千代の訪れ #文楽ネタ短歌

馬子唄に涙が混じり遠ざかる東へ向かう姫の行列 #文楽ネタ短歌

石乗せた駕籠は出て行く九太夫は一力茶屋の床下にあり #文楽ネタ短歌

苧環の糸をたぐって追うお三輪御殿の前で糸はふっつり #文楽ネタ短歌

突然に桜丸あい突然に時平の列の先触れを知り #文楽ネタ短歌

婿取りのお里はふっと目を覚まし外に弥助と上臈がいる #文楽ネタ短歌

聞きつけて玉手無理やり割って入る押しのけられてのかない浅香 #文楽ネタ短歌

父だとも子とも十兵衛言えぬまま悶える父に笠差しかける #文楽ネタ短歌

死ぬために千日寺に来たはずが獄門首に女おののき #文楽ネタ短歌

帯解け止める手すらも振り払い女は急ぐ大井川岸 #文楽ネタ短歌

菓子を喰み刺され悶える千松を政岡黙し母は黙して #文楽ネタ短歌

鐘の音に耳を凝らして十三の音を数えて悶える母は #文楽ネタ短歌

千日の響きをおそれ金を撒く梅川連れて新町を去り #文楽ネタ短歌

片袖を脱いで女はヤッシッシ局ら前に米研ぐ声を #文楽ネタ短歌

勇ましい女虚無僧しおらしく家の主人を六助と知り #文楽ネタ短歌

城からのはるかな流れ目を凝らす男の前に紅色の水 #文楽ネタ短歌