【濡れる】 nu-rë #下二段動詞 #奈良 連用形はヌレ。ヌル[塗る]の自動詞形と考えられる。「塗る」は元々は漆を塗ることを意味したので、ヌレは塗った漆がまだ乾かない状態であることが原義(漆の乾燥は意外に難しい)。そこから液体によって湿り気を帯びる意に転じた。他動詞形は[濡らす]。 #ぬれる

【ふくれる】 fuku-rë #下二段動詞 #平安 連用形はフクレ。フクロ(袋)と同系のようにも感じるが、アクセントが異なり別起源。肺に関係するらしいフクロに対し、フクレは腹に関係するか。【腹】の音フクに状態の意の接尾語をつけたフクラの動詞化で「ぷっくらになる」が原意だろうか。 #膨れる #脹れる

【捧げる】 sasa-gë #下二段動詞 #奈良 連用形はササゲ。サシアゲ(指し上げ)の短縮(sasiagë →sasyagë →sasagë)。手を前方に突き出して持ち上げること。また下の者が上の者に何かを仰々しく手渡す動作。そこから「献上する、奉る」の意の謙譲語となった。特に神仏や貴人に対し使われる。 #ささげる

【食べる】 ta-bë #下二段動詞 #平安 連用形はタベ。タマヘ[賜える]の音転(tamafë →tamfë →tabë)。タマヘはタマフ[賜う=下賜する意]の受身形(tamafi+ë →tamafë)で、「下賜される」の意から「頂く、頂戴する」意の謙譲語となった。特に飲食物に対し使われて、有り難く喫食する意に転じた。 #たべる

【燃える】 mo-yë #下二段動詞 #奈良 古語終止形はモユ(連用形はモエ)。類義語の[焼く]が火の高熱を作用させる意なのに対し、モユは「炎や煙が立ち上る」という視覚的な意が強い。「もうもう」「もくもく」のモに状態の意の接尾語をつけたモヤを活用したものか。他動詞形はモヤス[燃やす]。 #もえる

【消える】 ki-yë #下二段動詞 #奈良 万葉集では雪に対して使うことが圧倒的に多く(他に露、霜、霧など)、火に使うことは稀。連用形はキエ(終止形キユ)だが、古くはケ(終止形ク)。kë →kiyë の変化を考えるに、ケの発音は[kyë]だったか。これは【解】の音で本来は雪が解ける意だったと思う。 #きえる

【衰える】 ötörö-fë #下二段動詞 #奈良 連用形はオトロヘ。「劣り敢へ」の短縮(ötöriafë →ötörafë →ötöröfë)。「敢へ」は動詞連用形に接続すると「無理に〜する、十分〜する」の意。オトロヘは「すっかり劣る」意。オトルの反復継続形と解するのは誤り。[劣る]は[落ちる]の同系語。 #おとろえる

【映える】 fa-yë #下二段動詞 #平安 連用形はハエ(終止形はハユ)。「栄え」とも書くが、「映え」の原義は「反映」で「栄え」の原義は「繁栄」。反映と繁栄が同音であることに着目するとハエはこの音[fan-yeng]に由来するという奇説も思いつく。普通は「生える」の同系語とされる。 #はえる #栄える

【生える】 fa-yë #下二段動詞 #奈良 連用形はハエ(終止形はハユ)。[速い]のハヤを活用させた語と思われる(faya+i →fayë)。何かがぽっと出てくる意。「放つ」「跳ねる」「弾く」「吐く」なども同系語か。他動詞形はハヤス[生やす]。ハヤシ[林]はハヤスの名詞形(連用形)。[葉]とは別起源。 #はえる

【栄える】 saka-yë #下二段動詞 #奈良 繁栄する意。古語終止形はサカユ(連用形はサカエ)。語幹サカは「咲く」の未然形に相当し、「咲いた状態、充実した状態」の意。ユは自発・受身の動詞を作る古い接尾語。由来的にもサカル[盛る]によく似るが、サカユの方が永続的な繁栄の意が強い。 #さかえる