枯ちゆく病葉に映ろう色が 不安と爪先　踊らせている 忌まわしい記憶だけが 脳裡にこびりついて 焦燥　掻き立てている ネオンひかる街は蛇腹のようで 本音さえ呑み込まれている 窓に映る姿　雨に揺らいで 煙に消えていった 油断した　その間をすり抜けて 眉間を狙う指 #言葉メモ

「さみしい」という彼女の震えた息が白い霞になって夜に溶けた。その内側にあるものを僕は理解できずにいたけれど、凍えた指先を握ることはできた。冬の空気は肌を切るように冷たい。居場所が必要だと思った。泣くのを堪えて息を吸いこむ彼女が、ため息を吐くための　#言葉メモ

Hey baby 確かに撃ち抜け 撃鉄は熱を有して　 あなたの心を躍らせる Hey baby 強かでいて 迷いのない瞳は　 闇を切り裂く光 僕を導いて #言葉メモ

聖域に足を踏み入れたような心地だった。静謐な夜の森に現れた黒檀の棺は月明かりに照らされて、ぬらりと光を反射している。指先をそっと這わせると、かたり、と音がした。錠が落ちる。懐かしい歌声に気を取られて、俺はきっと、最初から　#言葉メモ

「かもめ」という曲を歌いながら、チェーホフの「かもめ」を思い出していた。「私、この曲好きかも」という彼女に、女優の素養があるかどうかを考える。演技派の彼女もいつか「私は信じているからつらいこともないし、自分の使命を思えば人生もこわくない」と言う日が来るのかと　#言葉メモ

幼少の原風景は翠玉のようで、内部に多数の傷を抱えて、衝撃に極端に弱い、この石を冠する器を探し夢想を渡り歩いている。シーグラスに似た海と称される青緑は合成に失敗すると本当に硝子になってしまうのだという。#言葉メモ

「人生はたぶん電車のようなものじゃないかなって」と彼女が話した。静かな佇まいだった。僕は心象風景を街に喩えるので、なるほどなと思いながら聞いた。「目的という駅があって、私はそこに向かっていて、ひとがときどき乗ってきて、どこかで降りていって……また会えたらいいんだけどね」#言葉メモ

昏い色をした琥珀が愉悦に輝いていた。出口のない洞窟の奥で迎えにくるのを待っていたと言わんばかりに。指についた泥を嗤って、祭壇に這い蹲る私の頭を撫でる。とんでもないものを揺り起こしてしまったのかもしれない。朽ち果てた祠が口を開いている　#言葉メモ

「春はね、悪人になった気がする」と彼女が言った。「悪人？」「そう。罪悪感が湧くの」「なんで？」「みんなこの季節に向けて頑張るじゃない。植物は花を咲かせるし虫は活動を始めるし。私だけ怠惰に過ごしてる感じがするの」#言葉メモ

「矯正してくるんですよ」 「なるほど、なんか気になってることあるの？」 「あー、なんか、このままだと生活に支障が出るよって言われて」 「それは困るね」 「そうなんですよ。薬とか飲むの、怖いんですけどね。今のままだと周囲に迷惑かけちゃうかなって。飲んだらスッキリするらしいし」 #言葉メモ

「ああ、そうだった」と彼が言った。「もともと白紙だったんだ、何もなかった」星は有機的に輝いた。眼前は刹那、白く瞬いて、星だと思っていたものは全て雨粒だったことに気がついた。雷。甘い香りで纏わりつく湿気。鈍らせていた感覚が蘇り、それらは鋏のように周囲の音を切っていく。#言葉メモ

「坂口先輩！」ぼく、もしかしたらようやっと、運命のひとが現れたかもしれない、なんて、上機嫌で語りかけるそいつの表情に、俺はどこか嫌な予感がしていた。手に白い何かが握られている。「なんだ？それ」「ラブレターですよ！ラブレター！！」#言葉メモ

昏い瞳が私を捉えていた。殺されたいなと思った。海洋生物が降ってきて全て喰らい尽くしてしまう曲を聴きながら、このままアルコールに溺れて眠りたかった。静寂に乾いた声が心地いい。「夜行バスから見る景色みたいですよね、きらきらして」冬は遠いはずなのに、背筋に優しく降りる冷気。#言葉メモ

乾いた声音は昼より夜の方が似合うなと思った。ははは、と笑ったふりをする、そのひとの目が、一瞬輝くのを見逃さないためにも、きっと周囲は暗い方がいい。深い孤独の色が反射して、音の中で遊泳している。綺麗だなと思った。綺麗だ　冬の澄んだ空気みたいで　#言葉メモ

「ラブソングってぜんぜんリアリティなくないですか？」「わかる、好きだって言われても信用できないし、よっぽど嫌いだって言われたほうが理解できるよね」「それはちょっと僕の言いたいこととは違うと思います」 #言葉メモ

そのひとを初めて見たのは、箱型テレビのなか。白い服を着ながらくまのぬいぐるみを小脇に訳の分からない言葉を叫んでいたところだった。その面白さがわからなかった私は、数年後、彼女の書いた本を読んだのだけれど、やはり笑えなかった。代わりに、溜息を聞くような、妙な親近感を覚えた。#言葉メモ

「先輩、ロールプレイしませんか？」と後輩が言った。「ほら、今まで私たち、先輩と後輩って役を演じてきたじゃないですか。だけどまあこれからは、彼氏と彼女っていう役を演じてもいいんじゃないかって。だって先輩、今まですごくちゃんと演じてくれたから…こういうのも得意ですよね？」#言葉メモ

長い間、負け犬の遠吠えをしている。最初からわかっている。今更、そうだねとしか言いようがない。しかし、負け犬だからやめておけと言われるのは癪で、悪足掻きを続けている。スカイツリーができたばっかの東京タワーもこんな気持ちだったんだろうか。花篝に似た燃える赤　#言葉メモ

ズレている。まあ、ずっと前からズレているのでいまさら気にしてもどうしようもない気がしている。とはいっても、やっぱり気になるものは気になってしまって、直そうと手をかけた。けれども、そもそも元々の形がわからなくて、結局のところ、今度は反対側にズレている。 #言葉メモ

「気づかなかったの？あなた浮いてるよ」と言われるまで、あたしは自分が浮いていることを知らなかった。どおりで最近背が伸びるのが早いなあと思っていたわけだ。伸びていたんじゃない、世界からほんの少し浮いていたんだ。なあんだ、安心した　#言葉メモ

溜息と　あの子の正義は宙に浮き 今日も世界を漂っている #言葉メモ　#tanka