人形のつむじは無臭　真夜中のとなりの寝息確かめている／西藤智 #saitosatotanka

やまぶきのこぼれるみちにまだ白き通学靴の群れなしてゆく／西藤智 #saitosatotanka

街路樹をひとつ過ぐたび私たちかわりばんこに男子になれた／西藤智 #saitosatotanka

ビクター犬のおでこあかるい冬の日に水仙歌う地のあたたかさ／西藤智 #saitosatotanka

甘すぎていやだ　アイスは皿の端にからだ預けて型を手放す／西藤智 #saitosatotanka

好きじゃない服を着て寝る　なぜ今夜死ぬことはないと思えるのだろう／西藤智 #saitosatotanka

解体中のビルに水撒き虹の出るこんな終わりがよかったのにな／西藤智 #saitosatotanka

さるすべりなみきのみきにふれながら通うわが子のひたいあかるし／西藤智 #saitosatotanka

平等のむずかしさ、雨、冷えた首（パリが燃えるの何度目だろう）／西藤智 #saitosatotanka

くるむなら無地の毛布にしてほしい花柄よりも花をください／西藤智 #saitosatotanka

容疑者は同世代だと報じられ「やはり」と思うたび積もる澱／西藤智 #saitosatotanka

人が死ぬニュース流れる中華屋で浮いた脂を箸でつないだ／西藤智 #saitosatotanka

側溝のガラス破片はそれぞれに違う向きしてはね返す空／西藤智 #saitosatotanka

口つぐみまばたきだけを見せつけるあなたの肺は青い気がする／西藤智 #saitosatotanka

ぼくたちは二重サッシに守られて無音で揺れる楡を眺めた／西藤智 #saitosatotanka

焦点を持たぬトンボの眼を見つめ世界に見つめ返されるごと／西藤智 #saitosatotanka

本の背に指掛け選ぶ君を見る　選ばれるのを待つこころもち／西藤智 #saitosatotanka

自転車で椿を踏めば痛いって思う　ニュースに今日の死者数／西藤智 #saitosatotanka

帯の間に指差し入れてほの香る夏に近づくひとのからだは／西藤智 #saitosatotanka

山茶花のつぼみをめくる真ん中に何があるのか知るための爪／西藤智 #saitosatotanka

木々たちの秘めごとの子を薄紙にそっと包んで成熟を待つ／西藤智 #saitosatotanka

玄関に靴ひとつ減るそれだけの今日は誰とも話さないまま／西藤智 #saitosatotanka

治外法権のこころをスプリングコートの内にはためかせ笑む／西藤智 #saitosatotanka

もう二年きみの帰らぬ部屋にいて初めてみりん買い足している／西藤智 #saitosatotanka

ただ花を愛でるばかりのひとと居る耳のうぶげの見える近さで／西藤智 #saitosatotanka

水風船投げれば割れてすつぱりと女ではなく人になりたし／西藤智 #saitosatotanka

きみの温度を残さないきっちりと角の揃った毛布がひとつ／西藤智 #saitosatotanka

お揃いの鈴鳴らしゆく隊列のロードバイクの膝のあかるさ／西藤智 #saitosatotanka

フランク・ロイド・ライトの椅子に浅く掛け天に脳を吊られるごとく／西藤智 #saitosatotanka

プディングのゆれる周期で覚悟などふらつくものと知っていたなら／西藤智 #saitosatotanka

このごろは真珠が似合うようになりひかりやさしい坂を下った／西藤智 #saitosatotanka

強風は武蔵野線を遅らせて富士の見えない春がまた来る ／西藤智 #saitosatotanka

木星のひかりの注ぐ街にいて川は銀テのごとく流れる／西藤智 #saitosatotanka

街灯に雨筋しろく針となり展翅されゆく僕の両足／西藤智 #saitosatotanka

髪を編む、髪がいやだとほどけてく　波はどこまで伝わるのだろう／西藤智 #saitosatotanka

腹にある本音を音にできなくてパイプ椅子など片づけている／西藤智 #saitosatotanka

火事を見た面持ちのままコンビニへ入れば命だったものばかり／西藤智 #saitosatotanka

ラトビアの手編み模様に触れている知らぬ草木の名を口ずさむ／西藤智 #saitosatotanka

「高潮はここまで来ます」の水色の線をゆらりとキアゲハの越ゆ／西藤智 #saitosatotanka