「龍崎蒼、佛木珠緒、出撃開始！」 講師の指示と同時に２人の周囲が虹色に輝き、通信回線が極限まで開放される。これにより２人の霊力が99%刀剣男士に届くのだ。それを目の当たりにした直矢や他の研修生らは固唾をのみ、2人の戦闘をじっと見つめた。 #uminv

「お帰り、ギルティ。かなり首尾よくやってくれたようだね。『一般人』に押し付けた借金の額も絶妙で、あれなら戦争が終わり次第勝手に向こうから出ていってくれるだろう」 「当たり前でしょ！ビジネスは徹底的にシビアに、って教えてくれたのはボスじゃない」 #uminv

どちらも向こうっ気が強く『一番』を欲しがる蒼と珠緒だ。緊張はしているものの怯えは全く感じていないようだ。その時である。 『あるじさ～ん！準備OKだよ！』 『あるじさま～！いきますよ～！』 ２人のそれぞれの初鍛刀から出撃OKの合図が届いた。いよいよである。 #uminv

難民雇用のニュース第一報が流れてからおよそ一ヶ月、ギルティがようやく地球に帰ってきた。 「ボス！ただいま～！！」 ボスの顔を見るなり駆けつけ、抱きついた。その仕草はまるで飼い主にじゃれつく大型犬のようだ。旗から見たらマフィアのNo.３には絶対見えない。 #uminv

「刀剣男士からのGOサインが出たらすぐに戦闘を開始すること。経験上相手は短刀だと判明しているが油断はするな。お前たちは初陣、何が起こるかわからない」 「だいじょ～ぶ、だいじょうぶ！行くぜ、珠緒！」 「りょ～かい！ちなみに誉の一番は私がもらうからね！」 #uminv

「今は騒いでいるマスコミだが、2ヶ月もすれば俺達の事なんて忘れ去る。そこからが本番だ」 マフィアが社会不適合者を抱え込むことで、他の企業やコミュニティも助かる面もある。すんなりとはいかない『正義の定義』に紅椿は更に混乱していった。 #uminv

「こっちの方は索敵も完璧だぜ。敵の陣形は魚鱗陣―――お先に行かせてもらうけどいい？」 「ちょ、ちょっと待ってよ！！いつの間に索敵なんて…あ、もう出てるのか。こっちは雁行陣だ」 緊張のあまり珠緒はモニターの表示に気が付かなかったらしい。蒼の軽口にようやく落ち着きを取り戻した。 #uminv

マフィアとして一番避けたいのは大々的な公安の介入だ。内部告発などされてしまった日には一発でアウトだろう。それを極力避けるためには『困ったらヘルプセンターに駆け込む』という、まともな考えができる人間をうまく使いつつ速やかに退職させるのがベターだ。 #uminv

緊張で微かに震えている珠緒に香那や咲耶が声を掛ける。向こうっ気の強さから切り込み隊長に抜擢された珠緒だったが、流石に緊張してしまう。そんな珠緒とは対象的に、もうひとりの『切り込み隊長』に任命された蒼は多少緊張はしているものの、珠緒ほどの固さは無かった。 #uminv

紅椿は一旦言葉を止め、しばらく考えたあと再び言葉を続けた。 「下手をしたら公安に駆け込みかねない真人間を排除し、訴えられる恐れが極めて小さいタイプの人間を選び出すには一番確実な方法かもね」 「ああ、こちらが一番困るのは企業が公安に訴えられる事だからな」 #uminv

去年のシールド破り問題を受けて、戦場を囲っているシールドの強度を更に強くしたようだ。敵も逃げられないが、自分たちの刀剣男士も一定時間逃げることが不可能である。それ故、モニターの前に座っている研修生の表情はかなり強張っていた。 「珠緒ちゃん。もう少しリラックスして」 #uminv

ボスは紅椿に説明しながら更に別のグラフを表示した。 「食い物にするクズどもはこの区分―――ギャンブルや分不相応の買物での借金を既に抱えている奴らだ。『真人間』は邪魔なだけだが、このクズどもを取り込む為には不本意な人助けも必要になる」 「意外と非効率的ね。でも…」 #uminv

1ヶ月に及ぶシミュレーション訓練と飽きるほどの刀装作りを終えたあと、ようやく実際の『幕末・函館』へ刀剣男士を送ることになった。 「お前たちが刀剣男士を送る日時は函館総攻撃の少し前だ。総攻撃当日よりは多少時空は安定しているが油断はするなよ。シールドは破れる可能性がある」 #uminv

と、ボスはモニターにグラフを表示する。それは難民たちに背負わせた借金額の度数分布表だった。 「へぇ。9割位が5万ドル以下の借金なのね。ところでミマスの平均年収はどれくらい？」 「おおよそだが6～7万ドル。採掘工のような特殊職なら更に稼げるだろう」 #uminv

刀装の質はそのまま刀剣男士の怪我につながる。戦闘時に持つことのできる刀装の数は限られているだけに、できるだけ質の良い刀装を装備させたいと、流石に蒼も感じたのか直矢のアドバイス通り、きちんと計量をし丁寧に刀装を作り始めた。 #uminv

ニュース映像を見ながら、紅椿は複雑な表情を浮かべる。 「人間って自由を求めるものでは無いの？」 「それは安全と衣食住の保証がなされてこそ、ってところだね。少なくとも9割の人間は多少の借金と不自由さを選ぶ。あと殆どの採用者は10年も真面目に働けば借金の返済は可能だ」 #uminv

確かに直矢や女子研修生たちの刀装は10個ほどである。それに対し蒼が作った刀装は30個以上はあるだろう。やはりスピード重視で雑に作っているため数は多いものの質がイマイチだと思われる。 「仕方ねぇな…うちの奴らの為にちゃんと計って作るか。めんどくせぇけど」 #uminv

G連邦共和国とテティス国家連合がとうとう開戦した。一般市民は予めテティス外への避難を終えていたので民間人が巻き込まれる心配は皆無だったが、紅椿の心のもやもやは晴れなかった。 「ボス…あなたの企業に入った人たち、皆ほっとした顔をしているのね。借金を背負わされているのに」 #uminv

流石にここまで特上刀装が出てこないのは自分だけじゃないだろうと、少し離れた場所で刀装作りをしていた女性陣に声をかけた蒼だったが、返事は蒼の期待を裏切るものだった。 「こっちは全員8割は金玉刀装だよ…って、蒼くん何よ、その並刀装の山！作るの早すぎない？」 #uminv

モラルに目を瞑れば幾らでも働き口はあるし、雇用される方としても失業を心配する必要が無い―――限りなくダークだが双方に利益があるのだ。 「正義って何なんでしょうね」 ボスの横顔を見ながら、紅椿はもやもやとした思いを自覚した。 #uminv

そう言いながら直矢はかなり細かく資材を計量し、配合をする。すると特上投石兵が飛び出してきた。 「蒼は俺より霊力あるんだからさ、ちょっと丁寧に作れば絶対できるぜ。金玉刀装。お前は雑すぎ」 「そんなもんかねぇ…ねぇ！そっちの女子たちはどうよ？特上刀装できてる？」 #uminv

20世紀の日本ならばいざ知らず、終身雇用、またはそれに近い状態での雇用は企業側にとってもリスクが有る。いくら借金を返済するためとはいえそこまでやる必要は無いのでは？と紅椿は問うが、ボスはにやりと笑う。 「採掘工でも料理人でも職人は大歓迎さ。彼らは使える」 #uminv

「蒼はちゃんと量って刀装兵作らないから並ばっかりなんだよ。今回は刀剣男士と違って細かな資源も用意してもらっているんだからさ。せめて1g単位で量ろうよ」 「そ～ゆ～直矢はどこまで計ってるんだよ？え、金玉職人」 「0.1g単位。ちゃんと量れば出てくるぜ、金玉刀装」 #uminv

と、公的機関やNGOの救済漏れを指摘する報道も多数あった。そして『怪しげな企業』を擁護する報道は日に日に多くなっていったのだ。 「借金を返すまで仕事を続けろって、終身雇用でもするつもりなの？景気の変動だってあるでしょうに…普通は会社都合で辞めさせるでしょ？」 #uminv

「一応一通りはできるんだけどな～。なんで並兵ばっかりなんだろ」 山積みになった『刀装兵』の球を、さらに積み上げながら蒼はぼやく。そこに積まれている球は殆どが青銅色、たまに銀色があるくらいだ。その一方直矢の傍には金色の球が転がっている。 #uminv

『国やNGOの救済から漏れてしまった者の就職先を斡旋しているし、ローンの金利も一般のものに比べて決して高くない。むしろ法定金利内でも安いほうだ』 『就職条件が『ローンを組む』のは問題だが、難民が生きていく為には必要悪だ。むしろ公的機関に問題があるのでは？』 #uminv

初めてのシミュレーション実習の後にあった、刀装制作実習は皆真剣だった。『絶対に自分の刀剣男士に怪我をさせたくない！』と講師が引くほど黙々と刀装づくりに励んだのである。普段講師に絡んで『やかましい！』と叱られる蒼でさえ黙ったまま刀装作りをしているのだ。 #uminv

『この企業の裏にはジャパニーズ・マフィアの組織がいるという噂がある。徹底的に調べて採用されてしまったものを救出するべきでは？」 と、採用に難色を示す報道の一方、公共機関やNGOのサポートにもなっているこの採用を擁護する報道も同程度あった。 #uminv

歌仙の言う通り、ほんのちょっとの改善でより高い評価を取ることは可能だろう。ただしそのためには投石兵などの『飛び道具』が必要となるが―――それでも初めてのモニター越しの戦いに、予想以上の手応えを感じた直矢は笑顔を浮かべ、シミュレーターのスイッチを切った。 #uminv

『テティス戦争難民囲い込みか？日系企業が特別採掘工を中心に採用、その数1000人近く』 それだけではなく、一般人や貧民まで採用をしているらしいが、その方法が問題だと記事は訴えていた。 『支払い不可能な、多額の『借金』を背負わせての企業採用は如何なものか？』 #uminv

歌仙の一言に直矢や愛染も大笑いをする。今はまだ一番弱い敵の、しかもシミュレーションにさえ手こずっているが、経験を積めば直矢も刀剣男士たちもきっと強くなるだろう。 「今回は軽傷にもならない程度の傷だからA評価はもらえるだろうね。S評価は次回に取っておこう」 #uminv

G連邦共和国とテティス国家連合の戦争開始が秒読み―――それこそ明日にでも開戦するのでは？と囁かれる中、とあるニュースがミマスのニュースサイトから発表された。戦争秒読みのニュースが席巻する中それは小さなものだったが、見過ごすには少々問題があるニュースだった。 #uminv

「今回はゴメン！だけど本当の出陣に行く前には投石兵や銃兵の作り方とか習うから」 「あ、悪ぃ…つい本音が出ちまった。気にしないでよ、主さん！俺達も本当の幕末に行くまでにはかすり傷さえ許さねぇくらい強くなるからさ！」 「その頃には着物に付いた埃に文句を言うだろうけどね」 #uminv

どうやら今はバラすわけにはいかないが、遠くない未来に表沙汰になる『仕事』をしているらしい。その『仕事』を紅椿が嗅ぎつけたところで公安に報告もできないし、出来たところで来週には間に合わないだろう。仕方ないとは言え紅椿は己の無力さを呪った。 #uminv

他愛もない初期刀と初鍛刀の会話だが、直矢にとっては耳が痛い。刀装の作り方をまだ学んでいないとはいえ、飛び道具を作り出すのも刀剣男士に経験値を積ませるのも審神者の責務だ。シミュレーションとは言え自分の至らなさが顕になるのは精神衛生上あまりよろしくない。 #uminv

「なるほどね。確かにその方がリスクが少なくて中間マージンも取れそうね…それがどんな『仕事』かはあえて聞かないけど、ギルティあたりが中心になって動いているんでしょ？」 「その通り。そして聞かなくても来週か再来週辺りにこの件もきっとニュースになるだろうね」 #uminv

「やっぱ飛び道具が使えね～とツライもんがあるよな」 歌仙の裂けた袖を見ながら愛染が肩を竦める。 「シミュレーションでは投石、弓矢、鉄砲は使用禁止だからね。もう少し練度が上がれば僕でも敵の短刀に遅れを取ることは無いんだが」 「どのみち経験値、だよな」 #uminv

「『避難船事業』には俺達は入れないからな。民間会社が補助金目当てで押しかけているし、俺達の出る幕じゃない。だったら避難してきた採掘工や他の民間人に『儲け話』を斡旋するほうが遥かに儲かる。手に職を持つ者は人間でもアンドロイドでも欲しがる組織は山ほどある」 #uminv

その後に続いて歌仙が攻撃をするはずだったが、敵の動きのほうがやや早かった。小動物の骸骨のような姿の敵短刀は口に咥えた短刀で歌仙の袖を切り裂いたのだ。 「―――雅じゃない」 歌仙は不服そうに呟くと、更に歌仙に攻撃を仕掛けようとした敵短刀を歌仙は一撃で倒す。 #uminv