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（20日、第106回全国高校野球選手権香川大会3回戦、丸亀3―0坂出商） 　「田中さん、力を貸してください」 　3点を追う九回表無死、坂出商の矢野隼希（しゅんき）主将（3年）は打席に入る直前、バットに頭を押し当て、心の中で念じた。 　3球目、相手投手の低めのチェンジアップを振り抜くと、鈍い当たりの打球は中堅手の前にポトンと落ちた。 　一塁を踏んだ矢野選手は「田中さんが背中を押してくれた」とガッツポーズした。 　田中さんは昨年春、心臓の病で32歳の若さで急逝した田中宏樹さん。中学時代に所属した高松ボーイズのコーチだった。 　ケガをしたり、思い通りのプレーができなかったりしたとき、田中さんはいつも「それを乗り越えればもっと良い選手になれる」と背中を押してくれた。 　卒業後もLINEのやりとりをする「本当のお兄ちゃんのような存在」だった。 　最後に会ったのは昨年2月。田中さんは「甲子園絶対行けよ」と、やはり背中を押してくれた。 　その2カ月後、チームメートから訃報を聞いたとき、しばらく信じられなかった。 　それからは一日一日の練習を大切に過ごしてきた。 　「甲子園に行き、天国にいる田中さんに恩返したい」。そんな思いも抱え、夏の大会に臨んでいた。 　この日の相手は、初戦で強豪の尽誠学園を破り、勢いに乗る丸亀。試合は3―0で敗れた。悔しさで涙が止まらなかった。 　「緊張と重圧もあったけれど、『田中コーチ』が見守ってくれている気がして、のびのびとプレーできた。お世話になった方たちみんなに感謝したい」（和田翔太）

朝日新聞デジタル-1日前

（15日、第106回全国高校野球選手権和歌山大会2回戦　田辺6―0市和歌山） 　球威は衰えなかった。 　138球目、最後の打者を狙い通り、高めの141キロで空振り三振に。田辺のエース寺西邦右（ほうすけ）（3年）は笑みを浮かべた。 　「強豪校相手に完封できてよかったです。最初から全力で飛ばしました」 　昨夏の代表校、市和歌山を6安打に封じた。この日、最速は143キロを計測。春先から2キロ伸びた。 　田辺は今春の選抜大会に21世紀枠で出場した県立の進学校だ。選抜1回戦で、昨秋の明治神宮大会覇者の星稜（石川）に2―4で惜敗したが、寺西の力投で終盤まで互角に戦った。 　「間違いなく、いい財産になった」と田中格監督。だが、甲子園での善戦を「満足」では終わらせなかった。チーム全員が「もう一度甲子園に行きたい」と口にして練習に励んできた。 　大舞台を経験したことで、近大付、興国（いずれも大阪）、尽誠学園（香川）といった強豪と練習試合をしても、物おじしなくなったという。 　寺西ももちろん、その中心にいる。体幹トレーニングに力を入れ、体重は春から2キロ増えて80キロに。普段のキャッチボールから「指先に球をかけること」を意識するようになり、直球、変化球に磨きをかけてきた。 　2001年に選抜の21世紀枠ができて24年。同じ年の夏の甲子園に帰ってこられたのは、01年の宜野座（沖縄）と10年の山形中央の2校だけだ（中止の20年をのぞく）。 　「夏も絶対に出ます。甲子園に出るだけでなく、甲子園で活躍したい」と寺西。難敵を倒し、好スタートを切った。=紀三井寺（稲崎航一）

朝日新聞デジタル-6日前