萩原朔太郎は、中学三、四年の頃だつたか、自分がもつともあくがれた詩人であつて、今日まで、あの月に吠えるハトバのノラ犬や、くさつた蛤や、屋根の上の三毛ねこは、忘れられずにゐた。（1/3） （昭8.5.30 東京外語時代の日記より） #南吉と読書 pic.twitter.com/sTeiikVqy5

本屋によった。詩人全集の中に萩原朔太郎を見つけた。今の僕の頭で考へると、少し無理な想像と云つたようなものがある様に思へる。併し、一番僕は彼がすきだ。 （昭4.11.3 中学時代の日記より） #南吉と読書 pic.twitter.com/O8rFoArbJY

"本を読まぬ人間は駄目です"と僕はいつた。 本を読まうとする努力は正しい言葉に耳をかたむけようとする努力にひとしい。謙虚な心だ。 （昭14.6.13 安城高女教員時代の日記より） #南吉と読書 pic.twitter.com/0KYs4stAJ9

島木健作の「或る作家の手記」（改造）近頃はやりの満州移民のことを農民の側に立つて書いてゐる。芸術的なものではない。だがその誠実さにうたれ、現実を提示する詳密さに喜ばされる。この間宿直の夜読んで泣かされた彼の「随筆と小品」以来この作家を好きになつた。（昭15.1.8 日記） #南吉と読書 pic.twitter.com/JgKK20sGy6

改造にのつてゐる啄木の日記のことや、Syngeの劇集の序を読んだりしてゐたら、身がひきしまる様に、なかから湧いて来るよろこびとちからがあつて創作欲がうごいて来た。で夕方から夜にかけて、童話を一つ二つ叩きあげようとおもつて（1/2） （昭8.3.28 東京外語時代の日記より） #南吉と読書 pic.twitter.com/yCASKCmQCP

”プロレタリヤ文学”といふ雑誌をかしてくれたので読んでみた。小林多喜二のことが一ぱいかいてある。考へを変へなくてはならぬ。在来の童謡とか童話とかをどうのこうの言つてゐるのは、何も知らない馬鹿の様な気がする。思想的になやむとはこんな事か。 （昭8.5.27 東京外語時代の日記） #南吉と読書 pic.twitter.com/pqSkpxZgpp

ニイチエの道は遂に余の道ではない。ニイチエにきくものは偉大な男でなければならぬ。天才でなければならぬ。ニイチエは平凡人を贅物と呼ぶ。贅物と呼ばれたわれわれ平凡人がニイチエに耳傾けたとて何の益があらう。ニイチエはわれわれを救つてはくれない。 （昭12.3.10 日記より） #南吉と読書 pic.twitter.com/zvxRE29Pyu

ニイチエの「創造の哲学」は実証ではなくて主張乃至命令である。理性でより、より多く心臓で考へられたことである。従つてニイチエをうけいれるか否かは理性によつて判断しても無駄である。心臓が直感的に共鳴するか否かが分岐点となるのである。（1/3） （昭12.3.10 日記より） #南吉と読書 pic.twitter.com/7mCVFT4CqZ

入江たか子の"滝の白糸"を見た。（略）原作は泉鏡花、時代は明治二十年頃と始めから、古いことは解つてゐるので、その古さを笑つて了ふことも出来ず、それどころか、こんなにもしんぞこから打こむ女の情の強さにほだされてほろつとした。（略）泉鏡花がよみたくなつた。（昭8.6.30 日記） #南吉と読書 pic.twitter.com/zMlrenhZ6W

南吉の生きた時代は、白樺の人道主義や自然主義、プロレタリア文学やダダイズム、新感覚派や新興芸術派、転向文学や戦争文学、なにもかも、いっしょくたに詰めこまれた時代である。南吉自身のわたし宛の手紙では、（1/3） （巽聖歌の回想／牧書店版『新美南吉全集』第5巻より） #南吉と読書 pic.twitter.com/ZWa1Ka2dHy

僕は正直にいつてもよいならば芥川といふ人の小説がますますつまらないことが解つて来た。世間の人はこの人の描写が鋭いといつて感心してゐるやうである。しかし僕はその鋭さがとんでもない方向違ひのところに浪費されてゐるとしか思はれない。（1/3） （昭10.3.14 河合弘宛書簡より） #南吉と読書 pic.twitter.com/QNCCaRTAzh

芥川龍之介の将軍、藪の中を読んだ。将軍は面白いと思つた。しかし本格的小説に必要かくべからざるものがかけてゐる。即ちこれは本格的な小説でない。一体に芥川の作品には本格的なものは見られない。（略）読んでゐても飽いては来ないが底に力がない。 （昭8.8.13 東京外語時代の日記） #南吉と読書 pic.twitter.com/KpVckfuUWb

便所の白いタイルの上に赤く咲いた血の花。 痰の血か、鼻の血か、歯齦の血か。 肺病だらうか。 （略） 死ぬのは嫌だ。生きてゐたい。本が読みたい。創作がしたい。 （昭8.12.6 東京外語時代の日記より） #南吉と読書 pic.twitter.com/Fz0RZN7pJW

うんと金を使ふ。つまり岩波文庫を二十円ばかり買ひこみ、日曜日は岡崎へお茶をのみにゆく。それだけである。それが僕の放蕩なのである。（昭15.2.13 安城高女教員時代の日記より） ※岩波文庫を二十円＝当時の値段で考えると、おおよそ50冊分 #南吉と読書 pic.twitter.com/MLEaVq019C

高村光太郎は線の太い、荒い強い、まことに"大地の力を体現した"詩人である。底から押して来る詩人である。この詩人の発見の為に、自分は今日一日を無為に過したとしても悔いなかつたであらう。詩は讃ふべきかな。 （昭8.5.25 東京外語時代の日記から） #南吉と読書 pic.twitter.com/iWhEJdcOjT

高村光太郎、草野心平の詩を読む。負けた。平板な表現がない。どぎつい感覚。豊富なボキヤブラリ。精神力の強さ。やゝ言葉のマジツクなきにしもあらず。 草野心平なんて今まで頭から馬鹿にしてゐたが。宮沢賢治の影響を見受ける。 （昭15.1.20 安城高女教員時代の日記より） #南吉と読書 pic.twitter.com/PYPhWWqywY

「嘘」は愚劣な作です。宮沢賢治は天才ですから彼を持ち出されては参ります。（昭16.9.10 友人・澄川稔宛書簡より） ※「嘘」＝『新児童文化』に掲載された南吉の童話 宮沢賢治の風の又三郎を読み感服しました　あれはやはり天才ですね（昭16.10.23 友人・歌見誠一宛書簡より） #南吉と読書 pic.twitter.com/YPXH0TTdpS

俺の触覚にふれたもの宮沢賢治の短い童話。 宮沢賢治の童話にしげきされて昨夜、一ぺんを軽い気持で書きあげた。（昭8.4.16＆17 日記） 宮沢賢治の死んだことをきいた。宮沢賢治はいゝ童話が沢山あるだらう。"朝の童話的構図"、あれはすばらしい感覚的な童話だつた。（昭8.11.29 日記） #南吉と読書 pic.twitter.com/dY8v0qZaig

小川未明童話集の中、「人魚と赤い蝋燭」「飴ちよこの天使」「月夜とめがね」「海ほゝづき」を読むだ。感ずる所があつた。 （略） 「知らないをばさん」「月と海豹」「赤い船のお客」「兄弟の山鳩」を読むだ。「月と海豹」は、大きな或物を私に與へた。 （昭4.2.4＆5 中学時代の日記） #南吉と読書 pic.twitter.com/EpQJ6b6ZNd

白秋の童謡集を梶田に返却し、去年から借りてあつた、中里介山の「大菩薩峠」を松井英一君に返却した。「大菩薩」は第弐巻まで読むだ。 （略） 単行本、雑誌が手許になくなつたので、何だか淋しい。 （昭4.1.30 中学時代の日記から） #南吉と読書 pic.twitter.com/Ywba81OVrC

内田百閒の「東京日記」。二十ばかりの互に何のれんらくもない超現実的な精神分析学派的なエピソードから成立してゐる。ゴーゴリの「鼻」に類する行方であるが、ゴーゴリほどすつとぼけられないところに内田百閒の人間が顔を出してゐる。 （昭12.12.30 杉治商会時代の日記より） #南吉と読書 pic.twitter.com/SBmGU5ZOtM

チエーホフやフイルツプやルナールの思想はcoinである。ドストエフスキー、トルストイ、ゲーテなどといふ人の思想は紙幣である。僕の思想はどちらかと云へばcoinであるけれども、gold coinやsilver coinではなく一銭玉である。 （昭12.2.10 日記より） #南吉と読書 pic.twitter.com/5S0H7YcHNa

三好達治の詩集"春の岬"がついた。高雅で、純粋で、青やかにロマンチツクで、実に実にいい。かういふ美ではこれはすでに一つの頂点で、まねをしてもとても駄目な気がするが、まねをして見たくなる。向うのリズムがすぐこちらの口にうつり、何かうたひたくなつてくるのだ。(昭14.5.13 日記) #南吉と読書 pic.twitter.com/NsJKxS3xsI

語学の勉強のためにこの一年文学を断つことを決心した。だがそれは大へんやつて見るとつらいことだ。どうにもならない時には佐藤春夫の全集など開いて目次を眺め、本文のところどころ、ちよいちよい眼をやつて、せめて大きな欲望に小さい満足を與へてゐる。 （昭10.4.16 メモ＆日記より） #南吉と読書 pic.twitter.com/RbYs1BOJ5J