すいせい「霧魔の館で見たことない魔物から貰ったんだけどさ、最初は意味が分からなかったよね」 ハートのペンダントをいじる。最初に受け取った時はクリスタルの色が青かったのに、今は赤く輝いていた。 すいせい「力を手に入れたら喚べとか言われたけど…今なら分かる」 #まもけん二次

すいせい「へぇ〜、知ってるんだ。私はついさっき知ったばかりだけど」 意地悪な笑みが浮かぶ。嫉妬の魔王経由でナリアの思考を共有したと言っても、大まかな思想や事の経緯くらいで細かな事は掴んでいなかった。だから思わぬ拾い物だと思った。ナリアの重要アイテムをまた一つ奪える。 #まもけん二次

ポケットからペンダントを取り出しつつアクターンの肩を叩く。戦乙女の腕輪の効果を模倣し、麻痺を解いたのだ。すかさずアクターンはペンダントについて尋ねる。 アクターン「ご主人、それは？」 ナリア「な、なぜ貴様がそれを…」 すいせいが答えるより早くナリアが驚愕する。 #まもけん二次

ナリア「くっ…」 ナリアは己の無力感に苛まれ、歯噛みするしか出来なかった。嫉妬の魔王の力を得たすいせい、逆に失った自分。更にすいせいの仲魔が七人。希少種の中でも上澄み、全員が魔王クラスだ。どう足掻いても止められない。 すいせい「じゃ、そろそろ行くわ」 #まもけん二次

すいせい「どうせ元の世界に戻れないなら、こっちだって好き放題してやるよ」 ナリア「や、やめろ！恨むなら私だけを恨め！世界は関係な…」 すいせい「さっきまで偽りの平等とやらをぶっ壊そうとしてた奴がよく言うよ。あんたとしても一回均した方がやりやすいんじゃない？」 #まもけん二次

ナリア「すいせい…分かっ…」 すいせい「メルトもそらも倒してやるよ。世界をぶっ壊すついでにな」 ナリア「なっ…！」 すいせいは分かってくれたものだと一縷の望みを抱いていた。しかしそれは棚上げが過ぎた。ナリアの行為で捻れた感情はそう簡単にほどけはしない。 #まもけん二次

確かにそうだ。変わらない世界を変えるには圧倒的な力が必要。たとえ嘗ての厄災であってもそれは必要悪。そう言い聞かせてここまで来た。しかしそこまで筒抜けだとは。 すいせい「あんたも大概ブッ飛んでるよね。でも本心に触れられて、初めてあんたに好意を抱いたよ」 #まもけん二次

ナリア「それは…」 すいせい「それにさぁ〜、私知ってるんだよ？あんただってノリノリだったじゃん」 ナリア「そ、そんな事は…」 すいせい「そらを超える功績を打ち立てるには嫉妬の魔王を利用するしかないって、あんた自身も思ってたでしょ」 そこまで言われ、ナリアは息を呑んだ。 #まもけん二次

すいせい「嫉妬の魔王に操られてたからなんですぅ〜、って？ふざけんじゃねぇよ」 あざけるように言った後、憤怒の形相で詰める。発端が何だろうが、誰の意思だろうが関係ない。異変に巻き込まれた。すいせいにとってはそれだけが事実。許す道理などない。 #まもけん二次

それは心を読まれた疑問に対する遠回しな回答だった。ナリアの心に潜み暗躍していた嫉妬の魔王を今はすいせいが取り込んだ。だから内容を共有しているのだと。 ナリア「そうだ。そして今のお前なら分かるだろう。メルトに妬いたのは事実だが、その先の計画は全て…」 #まもけん二次

すいせい「でもさ、お笑いだよね。異変解決したそらを輩出したメルトに嫉妬したのが発端だなんてさ」 ナリア「な…っ」 絶句した。裡に秘めた真意が筒抜けだったのだ。東国の魔物、サトリにでもなってしまったのか。 すいせい「嫉妬の魔王は最初あんたに入り込んでたんでしょ？」 #まもけん二次

ナリア「ば、馬鹿な…嫉妬の魔王を取り込んだという事か…？」 すいせい「ヌルゲーだったよ」 アクターン「さすがご主人！あたし達に出来ない事を平然とやってのける！そこに痺れ…」 たりあ「少し静かにしてもらえるかし ら」 話の腰を折るメイドに麻痺の羽根を刺す。 #まもけん二次

【魔物娘と不思議な冒険if〜嫉妬の魔王と彗星の魔女〜】 第十三章『彗星の魔女』③ (前回まで)すいせいの意識に嫉妬の魔王が語りかけた。身体を差し出せと迫るがこれを拒否。逆に取り込んで現実に帰還した。 #まもけん二次

ナリア「す…すいせい？」 黒のオーブを取り込んだ後、微動だにしなかったすいせいが眼を開いた。恐る恐る声をかけた彼女はすいせいか、それとも…。 すいせい「正解」 不敵な笑みと共にすいせいが帰還。ナリアの予想を覆し、嫉妬の魔王を捻じ伏せたのだった。 #まもけん二次

だが一瞬で取り込まれ、自身の寿命を縮めるだけだった。 すいせい「じゃ、バイバイ。力は有効活用するからさ」 ━━オノ…レ…。コレデ…終ワリト…思……。 陳腐な捨て台詞は聞き流すと、闇はすっかり晴れていた。まだ意識はぼんやりしているが、眼前に見覚えのある顔があった。 #まもけん二次

すいせいを乗っ取るどころか自身が取り込まれようとしている。嫉妬の魔王は初めて嫉妬以外の感情を抱いた。 ━━ヤ、ヤメロ…コノママデハ…我の存在ガ…。 すいせい「一度討伐されてんでしょ？力だけ残して成仏しな」 ━━キ…貴様ァァー！ 闇が一息ですいせいを包みこんだ。 #まもけん二次

当たり前だろとばかりに啖呵を切る。彼女を衝き動かすのは激情。勝手に喚び出したナリアに復讐し、この世界を破壊する。それを支えにここまで来た。欲しいのはそれを可能にする力だけ。 すいせい「天界でも言ったろ？使ってやるからもっと寄越せ」 手足に絡んでいた闇が溶け込んでいく。 #まもけん二次

━━ナ、何故抗エル！？ 問いかけには驚嘆が混じっていた。いくら異世界人とは言え、ニンゲンが魔王の支配を逃れられるなど出来ないと思っていた。 すいせい「私は嫉妬なんてつまんない感情で動いてないし、この身体も亡霊に使わせてやるほど安くないんだよ！」 #まもけん二次

当然のようにすいせいは拒絶した。だが侵食は止まらない。 ━━我ヲ取リ込ンダ時点デ命運ハ決マッテイル。オ前ハ我ノ……。 すいせい「あぁもう鬱陶しいなあ！」 怒りのすいせいが魔力を放つと侵食が止まった。逆に少しずつ押し返しているようにも見えた。 #まもけん二次

だが嫉妬の魔王の言わんとしている事は全く別であった。 ━━異ナル者ヨ。オ前ナラにんげんデモ良イ器ニナレルヤモシレン。 闇がすいせいを侵食し始めた。手足の先から絡め取られる。 ━━異界ノ身体、能力…我ニ捧ゲヨ！ すいせい「━━はぁ？やだよ」 #まもけん二次

しかし暫く沈黙が続く。楽しくなってきたすいせいはここぞとばかりに煽る。 すいせい「怒った？ねぇ怒った？」 ━━オ前ハ特別ナにんげんダナ。 すいせい「あれ？分かっちゃう？そっか〜、まだスターの原石でもオーラは滲み出ちゃってるか〜」 冗談半分でおどけてみせる。 #まもけん二次

相手もそれを気に留める風はなく、淡々と話を続ける。 ━━奴ノ妬ミハ我ニ馴染ンダ。最良ノ器ニナルハズダッタ。 すいせい「それを私が邪魔しちゃったと。ご愁傷さまでした」 邪魔した自覚はあるのに悪びれる素振りも見せない。嫉妬の魔王とは何の繋がりもないから当然ではあった。 #まもけん二次

━━ソウダ。なりあノ妬ミノ感情ヲ利用シテ、最後ハ奴ヲ依代ニ顕現スルハズダッタ。 すいせい「へ〜、やっぱり嫉妬の魔王だけあって妬みに反応するんだ。ってかアイツ、そんな感情で今回のテロ引き起こしたの？」 笑いながら返す様は、本当に仲魔とでも話しているかのようだった。 #まもけん二次

暗い暗い、存在の全てを塗りつぶしてしまうかのような真っ暗闇。天地の境もない空間に少女が漂う。 脳裏に不気味な声が響いた。 ━━オ前ガ、我ニ触レルトハナ。 すいせい「あんたが嫉妬の魔王？」 声の主をすいせいは恐れなかった。知り合いにでも話しかけるように気安い。 #まもけん二次

【魔物娘と不思議な冒険if〜嫉妬の魔王と彗星の魔女〜】 第十三章『彗星の魔女』② (前回まで)地上に戻ったそらから連絡を受けたヴォルテイルはタルテに相談。するとすいせい達が行くと思われる場所を提示した。一方ナリアに叛意を見せたすいせいは黒のオーブを取り込んだ。 #まもけん二次

嫉妬の魔王の力は本来自分が取り込む筈だった。その力で世界に平等をもたらし、すいせいにもその世界を満喫して貰うつもりだった。だがもう何もかもおしまいだ。後は嫉妬の魔王が覚醒するのを待つのみ。止める手立てなど皆無だった。 #まもけん二次

ナリア「あ…あぁ…」 膝をつくナリアの目の前で六芒星の魔法陣が形成され、一つの宝珠に収束した。黒真珠のような輝きを放つ球体は即座にすいせいの体内に入り込んだ。 すいせい「ぐ…っ」 ナリア「呑み込まれる…嫉妬の魔王に…」 こんな事を望んでいた訳ではない。 #まもけん二次

等間隔に浮かぶ五つのオーブは一箇所だけ大きく間を空けていた。すいせいが持つ最後の一つを待つかのように。 ナリア「やめろすいせい！やめろぉぉ！！」 たまらず手を伸ばす。が、闇の障壁に阻まれた。その様子を愉しげに一瞥すると、オーブの望むまま隙間を埋めた。 #まもけん二次

ナリア「嫉妬の魔王の力を甘く見るな！いくらお前が異世界由来の異能を持っていたとて、ニンゲンに御し切れる力では…」 すいせい「舐めるなよ。過去の亡霊如きに負けるかよ」 すいせいが黒い霧を放つ。仲魔が持っていたオーブが一つずつ反応し、すいせいの胸元に集まっていく。 #まもけん二次

苦楽を共にしてきた二人がこれでは他の仲魔は言わずもがな。孤立無援で全て失った事を認めるしかなかった。 ナリア「……分かった、私の負けだ。だがすいせい、黒のオーブだけはこちらに渡せ」 すいせい「はぁ？あんた話聞いてた？」 #まもけん二次

【魔物娘と不思議な冒険if〜嫉妬の魔王と彗星の魔女〜】 第十三章『彗星の魔女』①-2 #まもけん二次

それがここに来て名前呼びになったのは、すいせいに鞍替えした何よりの証拠であった。 とこ「ナリア様には世話んなったけどよ、すいちゃんといる方が楽しいんだわ」 ナリアは二人の元側近を交互に見る。演技ではなかった。心からすいせいを慕っている。 #まもけん二次

すいせい「あぁ無駄無駄。二人共すっかり私の仲魔だから」 アクターン「そう、今のあたしのご主人はすいせい様♪だから分かりやすく呼んで差し上げたでしょう？ナ・リ・ア・さ・ま」 アクターンは自身が忠誠を誓う相手を“ご主人”と呼ぶ。今までは常にナリアをそう呼んでいた。 #まもけん二次

但し彼女は悲嘆に暮れるだけでなく意趣返しを心に誓った。ただ異能で潰すのでは芸が無い。目的達成の直前で叩き落とした方が痛快ではないか。そんな至福を味わう為に雌伏し、虎視眈々と気を窺っていた。 ナリア「とこ、アクターン、気付かなかったのか」 #まもけん二次

すいせい「だってさぁ？あんたのしょうもない理由で無理矢理喚ばれて、家族から引き離されたんだよ？復讐の一つも考えたくなるじゃん」 異世界に喚ばれ異能で無双。誰しもがそんな英雄譚を夢想する訳ではない。現世に帰れない事を嘆き悲しむ者もいるだろう。すいせいもその一人だった。 #まもけん二次

すいせい「だからぁ〜、私はあんたに喚ばれた日からコレを狙ってたの。あんたが一番絶頂してる時に横から掻っ攫うのを」 ナリア「は…初めから！？」 何やかんや上手くやれていると思っていたナリアからしたらよもやの事態だった。だがすいせいにとってそれは当然の感情だった。 #まもけん二次

すいせい「私はさ、今日この瞬間を夢見てあんたに服従してたわけ」 ナリア「まるで意味が分からんぞ！」 察しの悪い魔王様に落胆の色を浮かべながらも、やれやれとかぶりを振りつつすいせいは答える。ここに至るまでの経緯を。 #まもけん二次

一方、常闇の星は混乱の渦中にあった。黒のオーブが揃い、悲願成就が目前に迫った所ですいせいが造反、自分でオーブを使おうとしていたのだ。 ナリア「何のつもりだ。何故今になって！」 すいせい「違うんだよな〜。今が絶好の機会なんじゃん」 ナリア「どういう意味だ！」 #まもけん二次

ヴォルテイル「分かってる。が、答えは変わらんと思うがな」 ヴォルテイルは全て察していた。そして何があっても最後まで力になると決心している。とにかく最初にすべき事が定まり、約束通りそらに折り返す。 ヴォルテイル「そら、聞こえるか、そら━━」 #まもけん二次