この短期間で何があったかは知らない。だがその自惚れは実力行使で矯正しなければならない。お望み通り全力で。 ドナ「ならばお礼に…」 言葉と共にドナが姿を消す。辺りを見回すすいせいの顔面に拳が入った。 ドナ「映える散り様を与えてやろう」 #まもけん二次

ドナ「まぁ…その通りだが」 すいせい「こないだはルール違反させちゃったみたいだからね。私から言えば気兼ねなくMGMA使えるでしょ？」 ドナ「…ホントに舐められたものだな」 ここまで気遣われると嬉しさはない。要は全力の私でも今なら倒せると暗に宣言しているのだ。 #まもけん二次

だがわざわざ魔王、しかも最強候補に本当の本気を要求するとは。しかも前回はそれに完敗しているだけにアクターンも実況者の立場を忘れてしまう。だがすいせいは当然正気であり、平然と言葉を続けた。 すいせい「ニンゲンに対してMGMA使う時はニンゲンの合意が必要なんでしょ？」 #まもけん二次

すいせい「ドナ！MGMAで来い！」 その一言に世界が一瞬凍りついた。実際に時が止まった訳ではないが、すいせいの発言が命知らず過ぎて思考停止したのだ。 アクターン「す…すいせい様？ご乱心めされましたか！？」 決闘にブックはない。すいせいがどう立ち回ろうと自由だ。 #まもけん二次

一方でタルテはすぐに納得した。ドナの力はまだまだこんなものではない。破壊の魔王の本領はこれからだ。 すいせい「じゃあさ、お互いあったまってきたし…」 仁王立ちするすいせいの身体が紅い霧に煙る。魔力の高まりと共に気持ちも高ぶり、魔物に対する最大の煽りをかました。 #まもけん二次

すいせい「だね」 アクターン「え」 そら「え」 現場のアクターンも観戦するそらも、そして多くの視聴者も耳を疑った。あの激突がウォーミングアップに過ぎなかったのだ。 タルテ「そりゃあね。あれがドナの本気ならライバルになってなかったよ」 #まもけん二次

アクターン「おおっと、目まぐるしい攻防から一転、様子見に入った模様です！しかしお二人共最初から飛ばしてますね〜」 ここぞとばかりに実況が差し込まれるが、この時アクターンは誤解していた。指摘する意図はないが次のやり取りがそれを証明した。 ドナ「準備運動はこんなもんかな」 #まもけん二次

超人的な速度で繰り出される拳は幾重もの残像を生み、さながら千手観音の殴り合いのようだった。正拳の嵐を互いにノーガードで打ち合い、最後に二人同時に頬を殴られ吹っ飛び、数メートル先で同時に制動をかけた所でようやく一息ついた。 #まもけん二次

膝を伸ばし、両腕を広げて押し返す。片足立ちになったドナに右の正拳をお見舞いするが、左手で受け止めつつ体勢も整えた。そして畳み掛けるようにドナの正拳。最初のようにすいせいが右の正拳を合わせると、今度は一拍置いた後に激しいラッシュが展開した。 #まもけん二次

拳を引いた後は同時に左の正拳を繰り出し、相殺されるやドナは右の上段蹴りを飛ばした。すいせいは上体を反らして躱すもドナはそのまま踵落としへ繋げた。しかしすいせいはこれにも反応、膝を落とし頭上で両腕を交差させて受け止めた。 すいせい「ふん」 #まもけん二次

二人にとっては挨拶代わりに過ぎない初撃だが、衝突の衝撃が波紋のように広がり、建物や撮影者を震わせた。 アクターン「おぉ〜っとぉ！？メガトン級のストレートが互いに炸裂ッ！最初からクライマックスだぁ〜ッ！」 実況がまくし立てる間にも二人は次の行動に移っていた。 #まもけん二次

いや、視聴者も待ちくたびれているらしい。開始を催促するコメがとめどなく溢れている。 アクターン「しょうがないですねぇ。それではぁ〜、破壊魔ファイト、レディー…ゴー！」 すいせい「言い方ァ！」 突っ込みながらもすいせいは迫るドナに対応。拳と拳がぶつかった。 #まもけん二次

すいせい「いいよいいよ、気を遣わなくて。それより早く始めよ？」 ドナ「そうだな。前置きはもう要らないよな」 すいせい「じゃ、アクターン、合図よろしく」 アクターン「えっ？あっ…」 アクターンは色々段取りを考えていたらしいが二人は待ち切れない様子だった。 #まもけん二次

ご主人のチャンネルでは見た事もない爆増ぶりにアクターンは配信である事を忘れるほどにうろたえていたが、すいせいは笑って流した。目の前で確認できる訳ではないが世界中の視線が集まっているのに動じないのは大物の片鱗とも言えた。 ドナ「そう言うな。お前も今日の主役なんだぞ」 #まもけん二次

アクターン「すいせい様！コメ欄と同接がえらい事に！」 すいせい「どったん？」 アクターン「ど、ドナ様が出た瞬間に20万行って、まだ増加が収まらず…」 すいせい「へぇ、羨ましいね。私もいつか同接六桁引っ張り出せるくらいのアイドルになりたいよ」 #まもけん二次

【魔物娘と不思議な冒険if〜嫉妬の魔王と彗星の魔女〜】 第九章『決闘配信』④ (前回まで)ナリアのチャンネルで配信がスタート。“破壊の魔王を破壊してみた”というタイトルには嘲笑のコメが流れるが、ドナが映ると視聴者も急増。世紀の一戦に注目が集まった。 #まもけん二次

ドナの方が盛り上がったのは悔しいが、アクターンもプロのメイドだ。敵の紹介も平等に気合を入れて行う。そしてカメラに向かってドナが不敵な笑みを浮かべると、配信10分で同接20万を記録した。 #まもけん二次

すいせいからパンして小柄な魔王を映そうとすると、その瞬間からコメ欄が加速し、同接数も急上昇した。大衆が求めているのはテロリストではない。テロを打ち砕く魔王だ。 アクターン『その力は全盛期タルテ様と同格。武闘派筆頭、大魔王様を除けば実質最強。破壊の魔王ドナ様だあっ！』 #まもけん二次

それを感じたすいせいは画面の向こうの大衆にメンチを切る。それでも奴らは野次るだろう。ニンゲン如きにやれるかと。だがそんなノイズがどうした。戦うのは私だ。圧倒的な実力で黙らせればいい。 アクターン『そして挑戦を受けるのは〜…』 #まもけん二次

アクターン『ふっふっふっ、舐めていられるのも今の内。破壊の魔王に挑むは彗星のごとく現れた戦士の原石。常闇の星が誇る規格外のニンゲン、すいせい様だああっ！』 小型のハニービー型ビデオカメラ“スパイビー”が青髪の少女にレンズを向ける。 #まもけん二次

しかし予想に反し、コメ欄は緩やかに見守っている様子だった。他には“破壊の魔王に勝てるわけないやん”“これは炎タメ”“常闇の星終わったな”など。戦慄が走ったのは一瞬だけで、魔王の中でも一、二を争うドナに挑む無謀さが滑稽に映り、誰も本気で見てはいなかった。 #まもけん二次

いかにもコメディチックに提示されたタイトルはしかし、見る者全てを戦慄させた。更に冷たい声でアクターンが読み上げる。 アクターン『破壊の魔王を破壊してみた』 あまりにショッキングなタイトル。まして魔王への挑戦状だ。さぞかし民衆を畏怖させただろう。 “プロレス配信？” #まもけん二次

すいせいが指した先は画面外だったが、現地のアクターンは諦めたようにかぶりを振って進行を続けた。 アクターン『え〜では…皆さんお待ちかねぇ！今日このチャンネルでは歴史的一戦が行われます。題して…』 機材の新しさに対して古風なフリップを前面に出す。 #まもけん二次

待ち切れないとばかりにすいせいが映り込んだ。アクターンは押し返すように手を前に出した。 アクターン『こ、困りますよすいせい様。配信には段取りというものが…』　 すいせい『観衆は茶番なんか求めてないんだよ。向こうも待ちくたびれてるよ？』 #まもけん二次

彼女はカメラの前での立ち回りに慣れていた。愛嬌を振りまきながらコメントを読む余裕もある。 アクターン『あっ、今アルビノキルムリスって打ったお嬢様、後日“お掃除”に伺いますので覚悟して下さいね〜♪』 すいせい『おいアクターン、早く本題に入れ』 #まもけん二次

それを5分程見ていると、今度は廃墟の街にニンゲンの肌のキルムリスが映し出された。ここから配信開始だ。 アクターン『グッドアクターンヌーン！美白が自慢のキルムリス、常闇の星所属アクターンで〜っす☆』 普段の狂犬ぶりをおくびにも出さない立ち回り。 #まもけん二次

ココ会長「そらを痛めつけた奴だ。せいぜい世界中に恥を晒すがいいさ」 ヴォルテイル「そうなればいいがな…と、時間だな」 時刻は正午を回り、待機画面は配信準備中の画面に変わった。誰でも使える楽曲をバックに、在りし日の希少種保護協会の活動内容が順繰りに映る。 #まもけん二次

すれった「ドナ様は当時あなたやミコッテが相手にならなかったすいせいを一方的に叩きのめしたのよね」 そら「うん。わたし達はどうやって勝ったんだろうって悩んじゃうくらい」 そら一行で現場に立ち合っていたのはそらとミコッテのみ。そらの言葉を真実とするならばこの決闘は無謀だ。 #まもけん二次

そら「すいちゃん…ホントにやるのかな」 ヴォルテイル「既に枠が立っているのだ。今更ドッキリでしたとは言うまいよ」 モニターは配信待機枠を映していた。サムネイルには自信満々のすいせいと腹黒い笑みのアクターンが並び、【緊急生配信！】の文字が躍っていた。 #まもけん二次

翌日。太陽がもうすぐ一番高い位置に着こうとする頃。そら達は宿屋に備え付けのパソコンに集まっていた。ドナとすいせいの決闘配信はドナからタルテ、メルトを経由してヴォルテイルに知らされ、この日は探索を中断して配信を見る事を決めていた。 #まもけん二次

【魔物娘と不思議な冒険if〜嫉妬の魔王と彗星の魔女〜】 第九章『決闘配信』③ (前回まで)すいせい側の決闘前夜はオンライン会議で仲魔が集まっていた。手出し無用を厳命し、ナリアから一応の激励を受け、遂に決闘の日を迎えるのだった。 #まもけん二次

すいせい「じゃ、明日はナリアのチャンネルの配信枠を開いて正座待機ね。アーカイブ残らないかもだから見逃し厳禁だよ」 正気で狂気に走れる凶星。だからこそ彼女はカリスマとして信奉される。彼女に夢を見る。 そしてすいせいも決意が満たされ、決闘の刻が訪れる━━。 #まもけん二次

すいせい「言われるまでもないよ。今回はやれる。自信があるから決闘を申し込んだんだ」 ナリア『なら結構。私も一視聴者として楽しみにしているぞ』 言うだけ言って姿を消す。ただの確認か。暇人ならぬ暇魔王か。心の中でひとしきり悪態をつき、気持ちを明日へ切り替えた。 #まもけん二次

ナリア『イキってたクセにMGMA出したドナにボコされたメスガキ』 すいせい「この…」 紅い霧を斧に変え、鏡に向けて投げつけようとする。が、続くナリアの一言に手を止めた。 ナリア『平和ボケした魔物共に絶望を見せるのがお前の役目だ。それがオーブの活性化…我らの悲願に繋がる』 #まもけん二次

ナリア『一人でくたばるのは構わんが、せめて見れる配信にしてくれよ？』 すいせいの部屋しか映していない鏡に紫の髪の魔王が映し出された。すいせいにとっても元凶である平等の魔王。直接言葉を交わすのはいつぶりか。 すいせい「私を誰だと思ってやがる」 #まもけん二次

ルンに念を押したのは、彼女だけは透明化で現地に忍び込み、いざとなれば介入する恐れがあったからだ。強すぎる愛は時として推しを困らせるという事を分からせねばならなかった。 ルン「は…はいぃ！」 効果は抜群のようだ。これだけ恐縮しているなら間違いも起こさないだろう。 #まもけん二次

そして他の魔王が信用できないとしても、カメラが回っている以上迂闊な真似は出来ないはず。後は自分の仲魔に釘を刺しておけば決闘の準備は万全であった。 すいせい「だから逆に言えば、あんた達の介入は私の恥になるわけ。まさか私に恥をかかせたりしないよね？ルン」 #まもけん二次

アクターン「ですがすいせい様、向こうが大軍で来たりしたらいかが致します？」 すいせい「ドナはそんなタマじゃないし、他の魔王も出来ないよ。配信してるのに決闘の約束を反故にしたら恥さらしじゃん？」 やはり同じ破壊者だからか、すいせいもまたドナの本質を理解していた。 #まもけん二次

すいせい「そうね。気楽に見て頂戴。だから…決闘に乱入するなんてカッコ悪い真似はしないでね」 低いトーンで促す注意は、絶対に破ってはならないルールであると仲魔に刷り込まれた。ドナの想像通り、すいせいは決闘に横槍を入れられるのを嫌った。喩え自分が負けるとしても。 #まもけん二次

アトラ『すいちゃんがそう言うんだから信じましょうよ』 とこ『そうそう。酒につまみ用意して気楽に見ようぜ。すいちゃんが勝つ所をよ』 とことアトラは何も心配していなかった。元々ラミィ以外全肯定の節があるが、こと戦闘力に対する信頼は大きかった。負けっぱなしでは終わらないと。 #まもけん二次