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【722】 そうさせたのは決して、 僕の良心や善意ではない。 まだ日も暮れていない時間帯、 この犯行を誰かに目撃される 可能性を恐れてしまったのだ。 #俳優Sの独白

小説『俳優Sの独白』@I_was_an_actor

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【721】 だが、情けなくもこの時、 僕の手は竹筒の中の宝石に 触れることができなかった。 #俳優Sの独白

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【720】 愈々、決行の時。 #俳優Sの独白

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【719】 僕は、周囲に人間が居ないか、 用心に用心を重ね、観察した。 緊張と静寂の中に鼓動は高鳴り、 風に揺れる一瞬の木々の音でさえ、 僕を驚かせるに十分であった。 #俳優Sの独白

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【718】 夕方、僕は一人で播磨神社に行った。 祭壇に、竹をコップにしただけの 簡易的な賽銭箱が置いてある ことを思い出したのだった。 実際に見てみると、期待通り、 中には100円玉や500円玉が 入っていることが確認できた。 #俳優Sの独白

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【717】 僕は最低な妙案を思いついた。 #俳優Sの独白

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【716】 足りない。 こんなお金じゃ、全然足りない。 #俳優Sの独白

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【715】 皆の輪に入るために、 どうしてもお金が欲しかった。 人気のないタイミングを見計らって、 自動販売機の下に手を伸ばし、 落ちている硬貨を探したりもしたが、 偶に10円玉が手に入るだけだった。 #俳優Sの独白

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【714】 偶に優しい友達がガムを一粒 恵んでくれたりもしたが、 次第に周りからも、”可哀想な奴” という目で見られるようになり、 腫れ物のような存在となった僕は、 遊びに誘われる回数も減っていった。 #俳優Sの独白

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【713】 お金を持ち歩くということを、 僕は親に許されていなかった。 だから、キムラ屋の前で 他のクラスメイト達が楽しそうに 駄菓子を食べているところを、 僕は我慢して見ているしかなかった。 #俳優Sの独白

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【712】 お小遣いが貰えなかったのだ。 #俳優Sの独白

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【711】 東汰上の成徳中の裏にある キムラ屋という駄菓子屋は、 地元の小学生の溜まり場だった。 皆そこであわだまやガブリチュウ、 マルカワのフーセンガムを買って 放課後の時間を楽しんでいたが、 残念ながら僕は何一つ買えなかった。 #俳優Sの独白

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【710】 僕がクラスメイトから 疎まれる理由は、他にもあった。 #俳優Sの独白

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【709】 漢字がやりたかった訳ではない。 野球が、やりたかったのに。 #俳優Sの独白

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【708】 その癖、人よりも多く勉強している ものだから、頭ばかり良くなった。 人一倍漢字の知識も増え、 担任の先生からは、”漢字博士” なんていう渾名で呼ばれたりもした。 #俳優Sの独白

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【707】 だから、体育の授業で ソフトボールが行われた際には、 僕は取り取りでは常に余り者になり、 案の定簡単なゴロやフライですらも 上手く捕球することができず、 チームメイトには酷く落胆された。 消えてしまいたい程に恥ずかしく、 形容し難い程に、悔しかった。 #俳優Sの独白

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【706】 二重の宿題の所為で、唯でさえ 友達と遊ぶ時間が制限された上、 親の方針により、クラスメイトの 殆どが参加していた子ども会に 入ることも僕には許されなかった。 その為、子ども会の恒例行事であり、 男子の皆が熱中していた”野球”を、 僕は経験することができなかった。 #俳優Sの独白

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【705】 その為、全ての宿題が終わる頃には 友達は皆疾うに解散していた、 なんていうことも粗にあった。 #俳優Sの独白

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【704】 僕の家庭には、学校から帰ると その日出された宿題に加え、 母が予め用意したプリントも 仕上げてからでないと外出しては ならないというルールがあり、 #俳優Sの独白

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【703】 ここで少し、 幼少期の話をしようと思う。 僕は三重県北部・桑名市に生まれた。 父は会社員、母は学校の先生で、 中々に堅い家庭であったから、 小学校生活は窮屈な毎日であった。 #俳優Sの独白

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【702】 子どもの頃に描いた夢は、 世間に出て成長していく過程の 何処か然るべきタイミングで、 勝手に現実が破壊してくれる ものだと思っていたのだが、 僕の場合はそうではなかった。 #俳優Sの独白

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【701】 今、改めて考えてみる。 僕は何故こんなにも長い間 映画という世界に憧れを抱き、 心惹かれ続けているのだろうか。 #俳優Sの独白

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【700】 そう思いながらも僕の足は、 コン、コンと音を鳴らしながら、 夕刻の新宿へと向かうのであった。 #俳優Sの独白

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【699】 潜在的な現実逃避意識から生まれた この被誘拐願望は、どういう訳か、 夢では終わらないような気がした。 #俳優Sの独白

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【698】 いっそあの影が僕を連れ去って、 このどうしようもない日常から 僕を救ってくれたとしたら、 どれだけ楽になれるだろうか。 #俳優Sの独白

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【697】 僕は、逃げ出したいのか? このどうしようも無い世界から、 この夢ごと、逃げ出したいのか? #俳優Sの独白

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【696】 全ては夢であった。 それにしても、どうして こんな夢を見たのだろう。 #俳優Sの独白

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【695】 ああ、今日は、 映画を観に行くんだっけ。 少し茫とした頭は、 徐々に解像度を取り戻した。 #俳優Sの独白

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【694】 ――僕は不意に目を覚ました。 十四時を少し過ぎた頃だった。 窓の外から微かに雨の音がした。 #俳優Sの独白

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【693】 「それならこの包丁で、 世界を変えてくれよ!」 #俳優Sの独白

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【692】 僕は精一杯の力で、 包丁を持つ“僕”の右手を掴んだ。 刃先は僕の喉を捉えた。 #俳優Sの独白

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【691】 「さあ、世界を変えろよ」 #俳優Sの独白

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【690】 「包丁一つで、特別な人間になれよ。 そうすれば自ずとお前の夢は消えて、 お前は、全てから解放されるぜ」 #俳優Sの独白

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【689】 「ならば、世界を崩壊させるか?」 影は言った。 #俳優Sの独白

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【688】 僕は、酒鬼薔薇聖斗にも、 レールに散った肉片にもなれずに、 哀れに生き伸びているのだ。 #俳優Sの独白

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【687】 漫然と何かを待つばかりで、 どうしようも無い日々を どうしようも無く過ごして、 自分が何をしたいのかも、 もう分からなくなっている。 その癖、そんな詰まらない 人生に何か革命を齎そうと、 自分の世界を作る覚悟も無い。 #俳優Sの独白

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【686】 昨日も、今日も、明日も、 「さよなら」が言えずにいる。 #俳優Sの独白

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【685】 全て、頭の中では分かっていた。 稽古場で芝居を重ねた頃の情熱も、 もう戻ってくることは無いだろう。 無駄に流れていく時間を眺め、 後は、“いつ辞めるか”だけだ。 なのに僕は、そんな状況になっても、 「さよなら」一言に躊躇している。 #俳優Sの独白

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【684】 「映画も、朝焼けも、この夢も、 いつかは消えて無くなるって、 そんなことは分かってるさ。 だけど今は、それがなきゃ どうやったって生きていけないんだ」 #俳優Sの独白

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【683】 「分かってんだよ、そんなこと」 #俳優Sの独白

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