丸い赤たくさん連ねどっさりの秋の実りとスキップるるるん #夜に溺れる短歌

明るくてキラキラ薫る優しさを歌いたいのに歌いたいのに #夜に溺れる短歌

後ろには立たないでいて誰なのか分からなくなる影が歪んで #夜に溺れる短歌

その刃 私宛ではなくたって削られてくの安全な場所 #夜に溺れる短歌

ころころろ秋の彼らが囁いて産み付ける針まざまざと吐き気 #夜に溺れる短歌

ぼんやりとなんとなくでも生きられる それができない律儀な命 #夜に溺れる短歌

傷口が痛んでしまうジカジカと刺さり始める消えぬ黒カビ #夜に溺れる短歌

嘴で蜜を吸っては落とす鳥 吸ったか未だか見分けるためか #夜に溺れる短歌

ハンガーに掛けられたからゆっくりと乾くことにした洗濯物 #夜に溺れる短歌

時々は外され眠る星ピアス三日月シャーレに憧れたまま #夜に溺れる短歌

いつの間に現れた冷え颯爽と微熱を運び背中ゾクゾク #夜に溺れる短歌

枯れ葉去る閉めた窓揺れゴトガタタ涙の味も乾いて舞って #夜に溺れる短歌

次々と口に含めばシュワリ消えメレンゲたくさんシフォンのあなた #夜に溺れる短歌

数えれば6年半年経つけれど今も吸いたい煙とZippo #夜に溺れる短歌

雨含みくったりとした草むらを裾を濡らして夜へと急ぐ #夜に溺れる短歌

肉筆を肉眼で観ることでしか得られぬ種類の情感あり #夜に溺れる短歌

目を閉じてあなたに似合う花束を選んで贈る妄想で祝う #夜に溺れる短歌

鉄線とクレマチスとは違うよとだけどどちらも綺麗に見える #夜に溺れる短歌

するするり文字が滑って転がってころころくるり どこまで行くの #夜に溺れる短歌

羽ペンが擽るように滑り去る花の命が欠け深まる秋 #夜に溺れる短歌

夢みれぬ誰かの夢を代役で見たかもしれぬ夢のまた夢 #夜に溺れる短歌

生きながら死にたがっては生きているこれが生きるということでしょうか #夜に溺れる短歌

白い粒飲んだら少し眠ろうかブランケットをキミの代わりに #夜に溺れる短歌

雨が降る胸のざわざわ握り締め明るいうちに眠り貪る #夜に溺れる短歌

雨の音ぽつぽつてんてん包み込む それでもいいよと耳を撫でる #夜に溺れる短歌

それぞれの悲喜交々は糾える縄となりなん きっとなりなん #夜に溺れる短歌

鎧脱ぐ場所を探して月明かり 弱火の焚き火 似たような人 #夜に溺れる短歌

足跡を辿る旅路も沼地では逸れば白骨 日照り待つとて #夜に溺れる短歌

食い込んだままの形で肉が巻き 馴れた不自由死ぬまで一緒 #夜に溺れる短歌

左手が頸を握って離さない 見たことのない景色を想う #夜に溺れる短歌

目の上に居座るイボに嫌気して千切って煮込めばイボ煮よく売れ #夜に溺れる短歌

干し葡萄色の夕雲もったりとオレンジの陽にのし掛かる猫 #夜に溺れる短歌

蛍石 蛙真似して飲み込んだ ポカポカフワリお腹が光る #夜に溺れる短歌

濁っていく夏の溜め水気付かれず昨日でもなく明日でもなく #夜に溺れる短歌

この街は丑三つ時に烏吼え街路樹のもと白い腕咲く #夜に溺れる短歌

前髪は短いらしい 逃げていく尻尾も掴めず 寝て待ちますか #夜に溺れる短歌

大好きと大好き大好き大好きと一時でもいいギザギザの獣 #夜に溺れる短歌

どろり逃げ身体ばかりが準備して満ちては捨てる名前ない部屋 #夜に溺れる短歌

買い叩け安く安くと尊厳を量り売りして長らえた先 #夜に溺れる短歌