#奇病庭園 ─では、キャフラの肉を喰らったのは？ ─俺だよ。不味かったなあ。あそこまで頑張る必要はなかった。 鉤爪に就いてより

#奇病庭園 「抱き合いながら、互いの抱擁から必死で逃れようとするかのように身を捩った奇妙な体勢のふたつの屍体は、10本の鉄針で縫い止められていた。まるで蝶の標本のように。男の軀を背から貫いて、女の心臓、肺に、脾臓に達したそのかぎづめは、男の背に回された女の手から始まっていた」

#奇病庭園 「〈世捨て人〉狩りの土産として都にもたらされたのは新たな流行だった」 「黒光りする鉤爪、とばかり聞いていたので、死んだ世捨て人たちの手足から切り取ってこられた指を目にして、その爪がずいぶんと多彩な色をしているのに驚いた」 鉤爪に就いてより

#奇病庭園 「美を重んじる教団の人々の間では、（皮膚のどこかに鱗が萌え初めたのは）誰もが持っていながら誰もが恥じて隠す、ひそやかな悪徳のごときものとして衣の下に秘められていたが…」 翼に就いてより

#奇病庭園 「（鱗の生えた少年が）夜半窃かに石壁に挑むときも、鱗は月の光に応えてきらめき、水晶の矢のきらめきが、それに応えて監視人の手から放たれた」 翼に就いてより

#奇病庭園 「もう一人の赤子は池に落ちた。池深く棲むなにものかが、過酷な産湯から赤子を救い上げて岸に運んだ」 翼に就いてより

#奇病庭園 「翼を生やしたのは妊婦たちであった。錨のような腹で地に釘付けにされ、錨のような腹で婚家に釘付けにされ、錨のような腹で墓へ引きずり込まれようとしている妊婦たちの…」 「おのれ一人が負う錨の重さに倦み果てた妊婦は、ふいと翼を広げて飛び去り、二度と帰らない」 翼に就いてより

#奇病庭園 「ここに一人の写字生が登場する。売血の徒と言うくらいだから当然極貧の身である」 「無論写字生には自宅はおろか自室もなく、文書館の地下房の寝棚に詰め込まれて寝起きするのだということを、」 角に就いてより

#奇病庭園 「老人たちは角の重さに頭を上げることもままならずに寝付き、それでも角はますます重さを増して、あるところまで熟すると、嚔（くさめ）をしたが最後ぼろりと頭ごと外れるに至るのだった」 角に就いてより

#奇病庭園 「奇病が流行った。ある者は角を失くし、ある者は翼を失くし、ある者は鉤爪を失くし、ある者は尾を失くし、ある者は鱗を失くし、ある者は毛皮を失くし、ある者は魂を失くした」 序より