ロシアの支配層の求める利益と国民一般の願う利益とがかけ離れていることを大戦が始まった時点で指摘していたのはまずレーニン、それからロシア生まれのユダヤ人アレクサンドル・イズラエル・ヘルファンドである。後者は1890年代にドイツに渡って革命的社会主義の頭角を現した #平和を破滅させた和平

つまりこれでロシアは貿易路を断たれ軍需物資調達も外貨収入もままならなくなったということである。そこに付け込んで暴利を貪る不当利得者をロシア帝国政府が放置したことも革命の一因となるが、それでもロシアが戦争を続けたのはダーダネルス海峡が欲しかったからと思われる #平和を破滅させた和平

残るロシアは東部アナトリアへの鉄道敷設を進めていてオスマン軍配属のドイツ参謀曰く1917年夏にはオスマン帝国を崩壊させそうな威圧感を示していたが戦後のロイド・ジョージの下院報告によればその年のロシア二月革命はオスマン帝国が黒海の出口を封鎖していたせいなのだった #平和を破滅させた和平

フランスでは1917年11月就任のクレマンソー首相が断固たる決意で大戦に臨んでいた。彼は前世紀から普仏戦争の復讐に全力を注ぐためには植民地などに国力を割くべきでないと唱えていて、今またシリアについても英国がくれるなら貰うが自分にとってはどうでも良いと言明していた #平和を破滅させた和平

ミルナーはモーリス・ハンキー率いる内閣官房の官房副長官職3席のうち２席に腹心のリーオ・エイメリとウィリアム・オームズビー・ゴアをあてがった。あと1席はサイクスで、彼ら以外にも帝国主義を唱える『ラウンドテーブル』誌のグループがロイド・ジョージに影響を与えていく #平和を破滅させた和平

ただしパレスチナに建設されるユダヤ人の「民族郷土」は英国の支配という枠組みの中でなされるべきである。19世紀の英国政府は中東からの他の列強の排除だけを目指していたがロイド・ジョージは中東における英国の覇権を追求し、帝国主義者ミルナーと緊密に提携していった #平和を破滅させた和平

ロイド・ジョージは政治の師と仰いでいたグラッドストンの反オスマン感情を受け継いでいた。それはオスマン帝国が国内のキリスト教徒に加えた残虐行為に対する嫌悪感に根ざしており、また小アジアに対するギリシアの野心やシオニストのパレスチナ入植計画にも同情的であった #平和を破滅させた和平

キッチナーの後任の陸相となったのはロイド・ジョージだったが彼は1916年12月にアスキスに代わって首相に就任、自由党の半分と保守党・労働党と共に連立内閣を組織、シリア進撃を主張してミルナー(やや遅れて陸相就任)の掲げる帝国主義な考え方にも賛同するようになっていった #平和を破滅させた和平

そこでロイド・ジョージが連携したのが下院の保守党徴兵論者カーソンと、上院でやはり徴兵制を主張していた元南アフリカ高等弁務官兼ケープ植民地総督にして帝国主義思想の旗振り役として知られたミルナーで、後者はボーア戦争の時にはロイド・ジョージとは対立関係にあった #平和を破滅させた和平

自由党首の首相アスキスはこの期に及んで徴兵制導入に及び腰で個人の自由を擁護していたが、WW1開幕時に自由党急進派として最後まで参戦に反対したロイド・ジョージは今や勝利のために個人の権利を犠牲にするのも厭わず徴兵にも意欲を見せたことで自由党内の仲間を失っていた #平和を破滅させた和平

オスマン帝国が意外と頑強に持ち堪えていたのに引き換え、英国では1916年末にアスキスが退陣、ロシアでも同年中に2度首相が更迭された挙句の1917年3月には帝政自体が倒壊、フランスでも17年中に3度の政変が続いた。英仏露3国の新指導者たちは各々新たなる中東観を抱いていた #平和を破滅させた和平

1916年12月にはファイサルの元で連絡将校の任に就いたロレンスには翌月からエジプト駐在高等弁務官に就任したウィンゲイトから多額の金が送られたが、フサイン軍はその後もメディナの城砦に籠るオスマン軍を攻めあぐね、すっかり立ち往生状態となってしまった #平和を破滅させた和平

ロレンスはフサイン軍を英国が裏から操るゲリラ部隊に仕立ててフサインの三男ファイサルをその指揮官とし、彼と英軍との連絡役を自分に任せるようウィンゲイトに進言した。そうやって英軍自体は動かすことなくフランスを排除するとのこの案はカイロ政庁にも好都合な話であった #平和を破滅させた和平

ブレモンは千人以上の部隊を伴っていた。英国は西部戦線重視の方針のため本格的な軍事支援はしなかったがブレモンへの対抗上追加の将校団を送ることとした。ジェッダにはストーズも到着、これに付き従っていた情報将校が後の「アラビアのロレンス」ことT.E.ロレンスであった #平和を破滅させた和平

フサイン軍は英艦隊が江海沿岸部を制圧したおかげで崩壊を免れた。その梃入れにとフランスがブレモン中佐を、英国もウィルソン大佐をそれぞれヒジャーズの港町ジェッダに派遣した。ブレモンはフランス植民地のムスリムの部隊を使ってフサイン軍を支援するとの任務を帯びていた #平和を破滅させた和平

フサインはエジプト軍(ムスリム)はともかく英軍(キリスト教徒)の内陸進出は拒絶した。英国はフサインに失望したが、フサイン側も反乱開始後もオスマン帝国中央との連絡を絶やさずにいた。彼の意図はオスマン帝国内での自治の拡大であって帝国からの独立でなかったからである #平和を破滅させた和平

フサインは自分が立てば10万のアラブ人部隊が馳せ参じると英国に伝えていたが、実際に動いたのはヒジャーズとその近辺の部族民だけ、メッカとメディナにいたオスマン守備隊の撃破にも失敗、見かねた英軍が上陸させて来たエジプト軍の支援でどうにかメッカやターイフを制圧した #平和を破滅させた和平

フサインの決起は状況に追い込まれてのことだった。ジェマルによるダマスカスの秘密結社弾圧で結社と自分が連絡を取っていたことが露見するのではと危惧したことと、オスマン軍の精鋭部隊が自分の領地を通ってアラビア半島南端に向かうとの通告を受けたことに慌てたのである #平和を破滅させた和平

その頃閣内で持て余されるようになっていたキッチナーはアスキスの要望でロシアを訪問する(そちらで開催される軍事会議に出席という形の厄介払い)こととなり、1916年6月5日に巡洋艦で出航、同日中にドイツ軍の機雷で帰らぬ人となった。フサインの反乱開始は同日のことである #平和を破滅させた和平

これを是としたロシアは英仏にもこの提案の受諾を持ちかけたが、仏はキリキアとシリアは自分が貰うと言い張り、英もフランスとの約束を優先した。オスマン帝国の内部崩壊をもたらし得る絶好の申し出を却下されたジェマルはその後、素知らぬ顔で連合国と戦い続けることとなる #平和を破滅させた和平

ジェマルはアルメニア人の政治団体を通してロシアにオスマン帝国の打倒と、その後の自分を君主としてのシリア.メソポタミア.アルメニア.キリキア.クルディスタンの各自治州からなる新国家の樹立、そのための支援の代償としてイスタンブルとダーダネルズ海峡の譲渡を申し入れた #平和を破滅させた和平

独墺の大使達はこの件が連合国側の宣伝に利用されることを恐れたのだが、果たしてそうなったこの大虐殺はオスマン帝国に対する戦後処理に関する連合国の方針に影響を及ぼしたかもしれない。またこの虐殺中に虐殺への関与を避けていたジェマルから連合国側に接触がなされている #平和を破滅させた和平

現在でもその「暴動」は事実だった=エンヴェル達の主張は正しいとする歴史家もいるが、当時の現地に居合わせたドイツ将校たちですら追放措置以前の同地は平穏だったと証言しており、当初は虐殺を察知しつつもスルーしていた独墺の大使からも本国にその旨の報告が届くようになる #平和を破滅させた和平

1915年初頭、エンヴェルとタラートは帝国内のアルメニア人が公然とロシア側に立って扇動.暴動を引き起こしてきたと述べ、その報復としてアナトリアの北東部諸州に住むアルメニア人の総追放を命じた。追放で生じた死者数については議論があるが、住民のほぼ半数の死は確実である #平和を破滅させた和平

オスマン政府はロシア国境地帯に住むアルメニア人の動向をも疑っていた。こちらはキリスト教徒だったためイスラムのオスマン帝国よりキリスト教のロシアに親近感を抱いていたのは確かで、ここ四半世紀程の間にオスマン帝国による間欠的な虐殺事件にもさらされていた #平和を破滅させた和平

パレスチナのユダヤ人の大方は大戦とのかかわりを避けようとしたがポーランド出身のベン・グリオン(後のイスラエル初代首相)とウクライナ出身のベン・ツヴィ(同じく第2代大統領)はオスマン帝国側でのユダヤ軍団編成を提唱するもジェマルに却下され、更には国外追放となっている #平和を破滅させた和平

ロシア国籍のユダヤ移民は本国の反ユダヤ主義から逃れてきた人々で、つまりオスマン政府に疑われる筋合いは全くなかったのだが、シリア・パレスチナを管轄するジェマル・パシャは彼等を厳しく弾圧、国外追放を命じて同盟国ドイツと中立国アメリカから自重を促される始末となる #平和を破滅させた和平

オスマン帝国側はダマスカスのアラブ系秘密結社を厳しく弾圧、そのせいか否か帝国内のアラブ人一般もアラブ人兵士達も帝国への強固な忠誠心を抱き続けていた。帝国としてはそれより在パレスチナのユダヤ人の方が疑わしかった。その半数がロシア国籍の移住者だったからである #平和を破滅させた和平

協定承認の少し前の1916年4月にはメソポタミアのクートに孤立していた英印軍が降伏している。この方面の英印軍は1914年11月にバスラを占領、翌年更にバグダードを目指して駒を進めたが補給が続かず途中で転進、孤立したもので、英国にとってガリポリに続く国家的恥辱となった #平和を破滅させた和平