七月三日 　　明治天皇御製 　　　をりにふれたる いにしへの御代（みよ）の教にもとづきて 　　　ひらけゆく世にたたむとぞ思ふ 口語訳 遠い昔の御代の聖賢の教えにもとづいて、新しく開けてゆく世の生き方に対処してゆこうと思う。 （明治三七年）

七月二日 　　昭憲皇太后御歌 　　　述懐 人のため身のためものをおもふこそ 　　うつせみの世のならひなりけれ 口語訳 世の人ため、わが身のために、心をつくしてさまざまに思いめぐらすことこそ、この世の中に生きる人の持つべき心のありようというものです。 （明治三二年）

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七月一日 　　明治天皇御製 　　　祝 国民の（くにたみ）のつくす力によりてこそ 　　世はにぎはしくなりまさりけれ 口語訳 国民が国のために一生懸命に尽くす力によってこそ、世の中は繁栄し、賑やかさを増すというものである。 （明治四〇年）

六月三十日 　　昭憲皇太后御歌 　　　梅雨晴 かぎりなくたちかさなりし雨雲も 　　はるればはるる水無月（みなづき）の空 口語訳 次から次へ重なる雨雲も、ひとたび晴れると、さわやかに晴れ上がるのが梅雨の空です。 （明治一八年）

六月二十九日 　　明治天皇御製 　　　述懐 ほどほどに身をも心もつくすこそ 　　人とうまれしつとめなりけれ 口語訳 それぞれ分に応じて、身も心もつくすことこそ、この世に人間として生まれて来たもののつとめである。 （明治三七年）

六月二十八日 　　昭憲皇太后御歌 　　　梅雨 ながからむものとしりつつさみだれの 　　けふもふるかといはぬ日ぞなき 口語訳 さみだれ（梅雨）が長いものだとわかっていながら、今日もまた雨かと自然に口に出ない日はありません。 （明治二〇年）

六月二十七日 　　明治天皇御製 　　　水 よどみなく流るる水のおときけば 　　わがこころさへすみわたりけり 口語訳 よどみなく流れる水の音を聞いていると、自分の心までも澄みわたってくることである。 （明治四四年）

六月二十六日 　　昭憲皇太后御歌 　　　信 つくろひて花をさかせぬ言（こと）の葉に 　　人のまことはみゆるなりけり 口語訳 とりつくろってうわべを飾らない言葉の内にこそ、人の心の真実を現れるものです。 （明治二二年）

六月二十五日 　　明治天皇御製 　　　道 くに民がこころごころにすすみゆく 　　みちにはさはるものなくもがな 口語訳 国民がそれぞれ思い思いに志して進んでゆく人生の道には、いささかの障害物もなく順調であってほしいものだ。 （明治四三年）

六月二十四日 　　昭憲皇太后御歌 　　　霧 かりみやのありともみえず代々幡（よよはた）の 　　さとの杉むらきりこめてけり 口語訳 仮のお休所があるようには思えないほど、代々幡の里の杉森は霧がたちこめています。 （明治三五年）

六月二十三日 　　明治天皇御製 　　　里 うつせみの代々木（よよぎ）の里はしづかにて 　　都のほかのここちこそすれ 口語訳 この代々木の里の中に身を置いていると、東京に居ることをつい忘れてしまうほどに、のどかな心持ちがすることだ。 （明治三九年）

六月二十二日 　　昭憲皇太后御歌 　　　述懐 さまざまのものおもひせしのちにこそ 　　うれしきこともある世なりけれ 口語訳 いろいろ心配したり苦しんだりした後に、初めて真の歓びや楽しみというものがやってきます。これが世の中というものです。 （明治四一年）

六月二十一日 　　明治天皇御製 　　　述懐 かりそめの言（こと）の葉草もともすれば 　　ものの根ざしとなる世なりけり 口語訳 ほんのちょっとした時に言うなにげない言葉も、ともすると重大なことの原因となる世の中であることだ。 （明治三七年）

六月二十日 　　昭憲皇太后御歌 　　　往事 さとゐせし昔はゆめとなりぬれど 　　おやのいさめはわすれざりけり 口語訳 生家に居りました頃のことは、今ではもう夢のような思い出ですが、親の教訓は忘れることができません。 （明治三一年）

六月十九日 　　明治天皇御製 　　　をりにふれたる 言（こと）の葉の上にあふれてきこゆるは 　　人のこころのまことなりけり 口語訳 人が心をこめ、しらべをととのえていう言葉の上にあふれ出て伝わってくるのは、その人の胸の奥のまことの心である。 （明治四五年）

六月十八日 　　昭憲皇太后御歌 　　　筆写人心 ひとくだりかきたる筆のあとにさへ 　　みゆるは人のこころなりけり 口語訳 さりげなくひとくだりに書きおろした、その筆の跡にさえも、はっきりとあらわれるのは、その人の心のありようそのものです。 （明治二三年）

六月十七日 　　明治天皇御製 　　　書 かみつ代（よ）のことをつばらにしるしたる 　　書（ふみ）をしるべに世を治めまし 口語訳 大昔の出来ごとを、くわしく書き記した書物をみちしるべとして、世の中を治めてゆきたいものだと思う。 （明治四〇年）

六月十六日 　　昭憲皇太后御歌 　　　述懐 をさな子のまなぶをみてもいたづらに 　　おひたちし身ぞくやしかりける 口語訳 幼童（ようどう）が一心に勉強しているのをみるにつけても、何らなすこともなく成人したわが身が後悔されることです。 （明治二一年）

六月十五日 　　明治天皇御製 　　　道 近きよりゆかむとしてはなかなかに 　　遠くぞまよふ世の中のみち 口語訳 急がばまわれの諺（ことわざ）のように、近道をしようとするとかえって遠まわりとなって迷うことがある。世の中の道もそのようなものだ。 （明治三九年）

六月十四日 　　昭憲皇太后御歌 　　　社頭松 みづがきの松の根ざしのゆるぎなき 　　国のさかえを神はもるらむ 口語訳 神殿を囲む瑞垣（みずがき）の内に、しっかり根ざしている松のように揺るがぬ国の栄えを、神は護っていて下さることでしょう。 （明治四〇年）

六月十三日 　　明治天皇御製 　　　行 やすくしてなし得（え）がたきは世の中の 　　人のひとたるおこなひにして 口語訳 たやすいことのはずでありながら、なかなか実行できないのは、この世の中の人としての道にかなった行いというものである。 （明治四〇年）

六月十二日 　　昭憲皇太后御歌 　　　新樹露 かずしれず実をむすびたる梅の枝（え）の 　　わかばおもげにつゆぞおきける 口語訳 数えきれないほど多くの実をむすんでいる梅の枝の、若葉には重たげに露がおいています。 （明治三五年）

六月十一日 　　明治天皇御製 　　　書 石上（いそのかみ）ふるごとぶみをひもときて 　　聖（ひじり）の御代（みよ）のあとを見るかな 口語訳 遠い昔に書かれた書物を深く読みこんで、聖帝の御代のご治績を偲び学ぶことは、心たのしいことである。 （明治三九年）

六月十日 　　昭憲皇太后御歌 　　　病院 やむ人をきてみるたびにおもふかな 　　みなおこたりて家にかへれと 口語訳 病気で苦しんでいる人を病院へ見舞いに来るたびに、いつも思うことです。みな一日も早く病気が回復して、家族の待つ家にかえりなさいと。 （明治二二年）