青ぞらのはてのはて 水素さへあまりに稀薄な気圏の上に 「わたくしは世界一切である 世界は移ろふ青い夢の影である」 などこのやうなことすらも あまりに重くて考へられぬ 永久で透明な生物の群が棲む "宮沢賢治『詩ノート』

あなたが黙つて立つてゐると まことに神の造りしものだ。 時時内心おどろくほど あなたはだんだんきれいになる。 "高村光太郎『智恵子抄-あなたはだんだんきれいになる』

あなたが黙つて立つてゐると まことに神の造りしものだ。 時時内心おどろくほど あなたはだんだんきれいになる。 "高村光太郎『智恵子抄-あなたはだんだんきれいになる』

笑われて、笑われて、つよくなる。"太宰治『HUMAN LOST』

忘却が私を生かしてくれていたのだ。そして私は、まがりくねった道を、ある時は、向う見ずにつっ走り、ある時は、うつむきながらとぼとぼあるいて来た。それなのに、突然今日、私はふりむくことをした。何故だろうか。"久坂葉子『灰色の記憶』

恥をかいて、その上塗りまでしたら、輝きだした。"竹内浩三『鈍走記』

生きるという事は実に唯一の不思議である。"坂口安吾『堕落論』

そのとき以来、あの人を、いっそ私の手で殺してあげようと思いました。いずれは殺されるお方にちがいない。またあの人だって、無理に自分を殺させるように仕向けているみたいな様子が、ちらちら見える。私の手で殺してあげる。"太宰治『駈込み訴え』

誰にでも親切でありたい 誰とでも戰へるやうになりたい さういふ二つの心が いつも心をゆききしてゐる "室生犀星『星より來れる者‐二つの心』

私はおまへのことを思つてゐるよ。 いとほしい、なごやかに澄んだ気持の中に、 昼も夜も浸つてゐるよ、 まるで自分を罪人ででもあるやうに感じて。 "中原中也『山羊の歌』

旅、旅、旅、何よりも旅がよい、旅が私を打開してくれる。"種田山頭火『其中日記（十三）』

吹けば散る、散るこそ花の生命とは悟つたやうな人の言ひごと。この露は何とせう。咲きもせず散りもせず。ゆふべむすんでけさは消る。 "北村透谷『北村透谷詩集‐露のいのち』

どうしようもないわたしが歩いてゐる "種田山頭火『草木塔』

魔物だと思って、人間を殺してしまったら、たいへんだからね。"小川未明『草原の夢』

女は静かな調子を一段張り上げて、 「百年待っていて下さい」と思い切った声で云った。 「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」 　自分はただ待っていると答えた。 "夏目漱石『夢十夜』

僕の寂しい孤獨の過去は、ただ君一人しか親友を持たなかつた。僕の手紙を書く名宛も、生活の祕密を語る友も、天地にただ君一人しか居なかつた。"萩原朔太郎『室生犀星に与ふ』

もはや、あの人の罪は、まぬかれぬ。必ず十字架。それにきまった。"太宰治『駈込み訴え』

ああ朝だよ。これが朝だよ。一つねんねして起きるだろう、そうするとこれが朝だ "島崎藤村『新生』

私達がずっと後になってね、今の私達の生活を思い出すようなことがあったら、それがどんなに美しいだろうと思っていたんだ　"堀辰雄『風立ちぬ』

犬が吠える、虫が鳴く、 　　　畜生！　おまへ達には社交界も世間も、 ないだろ。着物一枚持たずに、 　　　俺も生きてみたいんだよ。 "中原中也『暗い天候』

さ庭べにトマトを植ゑて幽（かす）かなる花咲きたるをよろこぶ吾は "斎藤茂吉『つゆじも』

人間を愛し得（う）る人、愛せずにはいられない人、それでいて自分の懐（ふところ）に入ろうとするものを、手をひろげて抱き締める事のできない人、――これが先生であった。"夏目漱石『こころ』

美は次々とうつりかわりながら、その前の美が死なない。紀元前三千年のエジプト藝術（げいじゅつ）は今でも生きて人をとらえる。一民族の運命は興亡常ないが、その興亡のあとに殘るものはその民族の持つ美である。"高村光太郎『美』

私達は別れなければならなくなったことを悲しむ前に、理解なくして結んでいるよりも、理解して離れることの幸福を考えなければならない。"種田山頭火『砕けた瓦』

私は死ぬ前にたった一人で好いから、他（ひと）を信用して死にたいと思っている。あなたはそのたった一人になれますか。なってくれますか。あなたははらの底から真面目ですか。"夏目漱石『こころ』

バアでカクテル。食堂へ行く、オルドヴル。フアグラ――のうまさ。"古川緑波（古川ロッパ昭和日記‐昭和十四年）