そして週末。俺たちがいるのは… 「ここがお兄さんの通ってる学園なんですね…」 いや、リクエストに応えておいてなんだけど…本当にこんなとこで良かったの？ 「はいっ。志望校なので一度は見学しておきたかったですし、それに…」 お兄さんと一緒に来たかったんですよ──と友子ちゃんが微笑んだ。

ファイター登録は市役所でもできるが、ヴァレリアたっての希望でファイトタウンの役場まで赴くこととなった。 「…ふむ」 タクシーの後部座席からスカートを翻し、吸血鬼の令嬢が音もなく降り立つ。 「この街の空気…悪くないな」 寧ろ良い。と満足げに頷き、彼女の手が役場の扉を勢いよく押し開けた。

…それでレオナのやりたいことは学び直し、か。 「学生生活も途中でしたしね」 でも転校までするか？学ぶなら元の学校の方が… 「…記憶を失ってた時に随分迷惑かけてしまいましたもの。合わせる顔がありませんわ」 1日をループしていた時は何も知らない生徒たちに学友役とか諸々お願いしてたからな…

「へー、君が真宵ちゃんの…お姉さん？」 「ど、どうなんでしょう…？」 「かわいいねー。今度遊びに行かない？」 「え、ええと…」 前回とは別ベクトルで戸惑ってるな唯衣…っていうかなにしれっと遊びに誘ってるんだ僕だってまだなのに…！ 「あんたら圧かけすぎ！」 あ、真宵が全部蹴散らしてった…

「見つけましたよ、そこの女子生徒！」 一子と昼飯を食ってると砂煙と共に一人の女子生徒が現れた。 「あなた、購買部に走ってきたでしょう！あの時は犬のような容姿でしたが、その首輪が動かぬ証拠…そもそも装飾品の持ち込みは校則違反ですっ！」 風紀委員の腕章をつけた少女がギロリと睨みつけて。

「それはそれとしてメイク技術も覚えたいんよね」 蓑山先輩が化粧箱を引っ張り出す。舞台メイクは基本自分でしないとですしね…とはいえコスメとはまた勝手が違いますけど。 「そやね。でも筆遣いとかはキミのが詳しいからねぇ…いろいろ教えてもらえると助かるんよ」 そう言って先輩が筆をひらりと。

つーか今更間接キスごときで動じてんじゃあないよ…直接キスする時どうすんの？ 「直接…キス…！？」 紫子が想像して顔真っ赤にしてる…これまでの距離感はなんだったんだ。 「だって…先輩のことちゃんと好きって自覚したの…つい最近なんですもん」 俺に告られたのがきっかけらしい…え、そうなの？

姉さんちのリノベーションに向けて、設備類を見にショールームへ。 「少年ちのキッチン、使い勝手良かったんだよね…同じのがあるかねえ？」 ウキウキしながら展示品の周りをうろうろ…シミュレーションでもしてるのかな？ 「ねぇ、最初の夕飯は何食べたい？」 “なんでも”以外でね？と意味深な笑みで。

詩島とのおしゃべりにはお菓子がつきものなのだが…こいつなかなかにジャンクな味に傾倒してる。 「や、だって学食めちゃくちゃ薄味なんだもん…たまには刺激的なもの食べたいじゃない？」 気持ちは分からんでもないが、目の前のポテチやらコーラやらが秒で消えていく様はちょっと…いやだいぶアレだ。

アビーがチョイスした映画は大学を舞台にしたラブロマンスだ。明るく笑いかけるヒロインに、どことなく彼女を想起してしまう。 モニター越しの2人が近づくのに呼応するかのように、知らず俺たちも近づいていって…肩が触れて。 「あっ…タ、Tá brón orm」 顔を逸らす彼女の耳が、赤く染まっていた。

お嬢様扱いにすっかりご満悦のみそらは俺の膝に座ってワガママ放題だ。クラスの連中も苦笑しながら放置してやがる… 「ねえ、羽根のお手入れして？」 ええ？やったことないぞそんなん… 「教えてあげるからさ。ね？いいでしょ執事？」 仕方ないな…痛くても文句言うなよお嬢様？ 「はーい♪えへへ…」

ツバキと夫婦になって数ヶ月。季節は夏から秋へと変わり、収穫の準備に忙しい…そんな中、嫁の様子が少し変だ。 「おはようございまふぅ…」 なんか常時眠そうなのだ。8時間以上は寝てるはずだが…光合成不足か？ 「ひなたぼっこもちゃんとしてるんですけどねぇ…？」 本人も不思議そうに首を傾げて。

オーケーそっちがそのつもりなのはわかった…でも仮に転生者だとしても、少なくとも今は自覚してねーんだし…それまではフツーの先輩後輩として付き合ってくれたっていいだろ？ 「む…」 織田川先輩からも仲良くって言われてるし…な？ 「…仕方ありませんね」 不承不承といった感じで、森成が頷いた。 x.com/h_gren/status/…

なんかごめんね…妹のイタズラで。 「い、いえいえ…」 まあそれはそれとして…良かったから次の週末、どこか行く？ 「いいんですか？」 勉強も特訓も頑張ってるからね。息抜きというかご褒美だ。どこか行きたいところある？ 「じゃ、じゃあ…」 少し照れくさそうに、友子ちゃんが耳元でリクエスト。

自分の身体が動き出す…いやこれゴーレムが勝手に動いてるのか！？ 無軌道に振り回した拳が狙う先は… 「危ないっ！」 八木さんに当たりかけた一撃がぴたりと止まる。狭い視界越しに、寧子さんが糸でゴーレムを止めたのが見えて… 「…きゃっ！」 その強靭なはずの糸が、あっさりと切れたのも見えた。

「お父様、わたくしは…」 「御伽の家のことなら気にすることはない。後継ももう決まっているしな」 と告げた名前はたまに顔を合わせる秘書の青年だった。 「お前はもう自由だ。望むままに…生きてくれ」 「わたくしの…望むままに…」 オウム返しに呟くレオナがちらりと俺を見て…小さくうなづいた。

午前の授業の終わりを告げるチャイムと同時に一子が消えた。上履きを脱いでるってことは、わざわざコボルトの姿に戻って全力ダッシュしてんなこりゃ… 「たっだいまー！」 早っ！ていうかどっから出てきた！？ 「だって早く一緒に食べたかったもん」 戦利品を掲げ、ベランダから幼なじみが顔を出して。

翌日。今度は真宵の友達を紹介してもらうんだけど… 「お、男の子ばっかり…」 まさかの逆ハーレムだと…？ 「や、あたしも女友達欲しかったんだけどさ…気づいたらこんなことに」 言い寄ってくる男子を片っ端から塩対応してたら逆に惚れ込まれたらしい。朝陽のとこは女子ばっかりだし…両極端だなぁ。

期間限定のフラッペを試してみたが中々美味い。今回は当たりのようだ。 「前のはすごい顔してたっすもんねぇ…いつものにしとけばいいのに」 こういうのは挑戦するのが面白いんだよ。まぁとにかく美味いから紫子も飲んでみ？ 「うえっ！？そ、それ間接キスじゃないすか…！」 …なに今更照れてんだよ？ x.com/h_gren/status/…

先輩、俺が見繕ったコスメを気に入ってお買い上げしてくれたんだけど…あれからメイク姿を見ないな… 「や、校則でメイクしちゃダメやもの」 …そりゃそうなんですが。 「あと自分でやってもうまくいかんのよねぇ…」 またするときはきみにお願いしよかな？と笑う先輩に、どんな顔したらいいものやら。

なんやかんや日が進み…学園祭当日である。 「あーっ！にいちゃんそのカッコ！？」 う、やっぱ来たか… 「へぇ…弟クンのクラス、執事喫茶だったの？」 「かっこいーっ！」 目をキラキラさせる従妹とニヤニヤ笑う従姉に挟まれて。 「ね、ね、あれやって！お帰りなさいお嬢様ってやつ！」 …はいはい。

もっとネイティブスピーカーに触れてみたいとリクエストしたら、アビーがDVDをいくつか持ってきた。 「ゲール語が用いられているアイルランド映画デス」 わかりにくいところがあったら解説してくれるらしい。なんとも贅沢な授業だ。 「一緒に楽しみまショウね？」 コーラとポップコーンも持ち込んで。

ゴーレム越しにアラクネの糸が巻かれるのがわかる。でもびくともしていない。つまり… 「ふむ、ねこちの限界はここまでってことかな？」 そのようだ。じゃあ委員長、そろそろ俺を解放してくれない？ 「おけおけ…あ、あれ？」 魔導書をめくる八木さんが焦り始める。 「か、解除できない…」 ええっ？！

「とにかくさ、決めつけるのはよくないってうちは思うわけよ」 …それはまあ、確かに。 「…というわけで、おにぃには友ちゃんとデートしてもらいます！」 …はあ？ 「既におにぃのLI◯E経由で誘ってOKもらってます！」 いや待て勝手に…うわーマジだ！？ 「プランは任せた！」 そこはぶん投げかいっ！

「な…なあっ！？」 絹を裂くような悲鳴に目を覚ますと、ヴァレリアが顔を真っ赤にして俺を睨みつけていた。 「き、貴様！なぜ我の部屋に居る！？いくら従者とて距離感というものを…！」 いや俺も帰ろうとしたんだけど…ほら。 「ん？」 自分の手が俺の袖を掴んだままだと気づき、雇い主が絶句して。

老体がため息をつきながら俺に向き直る。 「頼みがある…あれを家から連れ出してくれないか？」 …はい？ 「今はもう、娘の幸せ以外何も望まんよ。そしてそれを為せるのは…残念ながら君だけのようだ」 残念は余計だと思いますが…ねぇお嬢様？ 「む？」 わずかに開いた扉から、レオナが顔を覗かせて。

「…そういえばきみともID交換してるけど、L◯NE送ってくれないよね？」 返信を諦めたスマホから目を離し、ちょっと不満げな視線を向ける。いや用もないのに送るの苦手で… 「用がなくてもいいよ〜。まぁ私も滅多に送らないから人のこと言えないけどね？」 僕宛にスタンプを送りながら、唯衣が苦笑い。

昼休みが近づき、幼なじみが妙にソワソワしている。 「だって今日、久々にあれの日だもん！」 ああ、あれか。 「そう！月に1回だけ発売される“超厚切りハムカツサンド”！」 一子の大好物だってのにここ最近は発売日に学校休んでたもんな。 でもうちの教室、購買から一番遠いから無事に手に入るかね…？

…目、開けてもらっていいですよ。 「ん…」 先輩が鏡に映った自分の、まんまるな目をさらに丸くして。 「これ…うちなん？」 リップにチークに…そばかすや隈はカバーして。渾身のメイクに彼女は驚いてくれて… 「君にはうちがこう見えとるんかな？」 はにかんだ表情とその一言に、僕の心臓が跳ねる。

学園祭から数日…付き合うことになった俺たちなわけだが、これと言って何か変わったかというとそうでもない。 「さぁ！約束通り今回はわたしが奢りますっ」 小遣い…もとい活動費が大幅UPしたという紫子が羽ぶりよくあれこれ注文していく…食い切れる量にしとけよ？ 「えへへ…はぁい」 ご機嫌だなぁ… x.com/h_gren/status/…

──まぁそんな感じで、おしゃべり好きの無口な人魚との出会いがあって今に至る。 昨夜も遅くまでLI◯Eに付き合って…正直めっちゃ眠い。駅のホームであくびに目を細めると、視界の端に詩島を見つけた。 彼女も俺に気づいたようで、こちらに視線を向けて「おはよ」と口パクしながら手を振り微笑んだ。 x.com/h_gren/status/…

夜も更けて、今日は姉さんがうちに泊まる。僕が姉さんちに泊まることはよくあったけど、逆はなかったからなんか新鮮だ。でも僕の部屋で良かったの？狭いよ？ 「お嫁さんを一人にする気？」 そう言われると返す言葉も無い…でも両親いるからイチャイチャは程々にね？ 「えー？」 いや、えーじゃなくて。

「Maidin mhaith！」 やあアビー…マジン・ワッ？ 「よくできましタ！朝の挨拶はもう完璧ですネ？」 不意にアイルランド語で話しかけられるサプライズ授業もようやく慣れてきた。 「Tá maidin álainn ann」 うん？ 「ふふっ、いいお天気ですネって言ったんですヨ？」 お隣さんが悪戯っぽく舌を出して。

「学園祭も3人一緒に回れるといいねぇ？」 タイミングが合えばね…高等部と中等部と大学生じゃ諸々時間が違いすぎる。 「ところでにいちゃんのクラスは何やるの？」 …教えない。 「遊びに行こうと思ったのにー」 ぜっっっっったい、来んなよ！？ 「えー？」 つまんないの、とみそらが頬を膨らませて。

「元々…あれを私の後継者にするつもりでいた」 この街の有力者として長年君臨してきたこの“家”を存続させるため、国内でも有数のお嬢様学校に捻じ込み…一人娘を酷使していた。 「何も知らなかった。あれと懇意にする男の存在すら…あの日が来るまでな」 視線の端に俺を捉えながら、雇い主が呟いた。

フロントに話を通して、ヴァレリアの取った部屋に滑り込む。思いの外軽い身体をベッドに横たえるといよいよ意識を手放したようで静かに寝息を立て始めた。俺より大分年上らしい彼女のあどけない寝顔は、見た目同様の少女のようで。 ──あれ？ 初対面のはずのその顔に、ふと奇妙な懐かしさを感じた。

「まぁお前らガキの頃から仲良かったもんなぁ…むしろまだ付き合ってなかったんかっつーかさ」 長い付き合いの男友達が苦笑いしながら俺たちを祝福する。 「…にしても」 ん？ 「付き合い出したからって距離感バグりすぎじゃね？」 「んー？」 俺の背中にしがみついた一子がぐしぐしと頭を押しつけて。

「お、女の子ってパワフルだねぇ…」 朝陽の友人たちとの会合を終えて唯衣がため息。いや君も女の子だからね…？ 「でもLI◯Eいっぱい交換したよっ」 勝ち誇ったように掲げるスマホから早速着信。いそいそと返信しようとする彼女の指がはたと止まる…ん？ 「み、みんなメッセ早くて返信できない…！」

「あ、こんなとこおったー」 ダンスタイムの合間を縫って蓑山がきた。ああ…悪かったな。芝居、台無しにしてさ。 「あはは…まぁ最初に無茶振りしたんはうちらの方やし気にせんとって。それに、あれはあれで良かったと思うんよ」 …おふたりさんにとってもな？と、手を繋いでる俺たちを見てニヤニヤ。