自分でも思っていないことを言う　それはスポーツにひどく似ている /佐クマサトシ

あなたとの隙間に鬼が眠っている /今井和子

誓います。薔薇の名前を捧げます。大人へといま離岸する舟 /笠木拓

雨だけの国に行きたい　よく晴れた日にはあなたを思い出すから /加藤千恵

それらしく咲いてくれたらああこれが最後なんだと思えたのにな /木下龍也

雨だから迎えに来てって言ったのに傘も差さず裸足で来やがって /盛田志保子

私が忘れた歌を　誰かが思い出して歌うだろう　私が捨てた言葉は　きっと誰かが生かして使うのだ　だから私は　いつまでも一人ではない　そう言いきかせながら　一日じゅう　沖のかもめを見ていた日もあった /寺山修司「ひとりぼっちがたまらなかったら」

あんなにこだわらず自在な生き方をする人を私は他に知らない。片手をすいと空にのばして、自分に合ったものだけ手に入れる。決して余分のものを望んだりしない。私にはそれが美しい魔法のように思えるのだ。/角野栄子「魔女の粉」

雨の日は雨を愛さう。風の日は風を好まう。晴れた日は散歩をしよう。貧しくば心に富まう。/堀口大學「自らに」

人は血で　本はインクで汚したらわたしのものになってくれますか /佐藤弓生

紫陽花の重さを知っているひとだ　心のほかは何も見せない /大森静佳

私たちはずっと、とても淋しいけどふわふわして楽なところにいた。死はあんまり重いから、本当はそんなこと知らないはずの若い私たちはそうするしかなかったの。もっと明るいところへ行こう。ゆっくり考えてみて。このまま、消えてしまわないで。/吉本ばなな「キッチン」

黙ってることは嘘をつくことにはならないの瞑ったほうが眩しい満月 /高田ほのか

夜が明ける刹那うつくし果てなしの世界をめぐる刹那うつくし /東直子

うつくしく退屈な曲たいくつな美しい曲　いつまでも雨 /永井陽子

日常からはみだすこと。日常がそこでぷつんと切れて、時間が停滞する、というか、ゆるくかたまる、くず湯みたいに。そういう意味で、散歩と旅とお風呂は似ている。/江國香織「散歩がついてくる」

ひかれあうことと結ばれあうことは違う二人に降る天気あめ /俵万智

遠くへ行きたい。どこでもいいから遠くへ行きたい。遠くへ行けるのは、天才だけだ。/寺山修司

お月さまがとっても好きだ。どんな形でも、美しい。でも、一番好きなのは半月になるちょっと前。切り口から蜜がしたたっているように見えるとき。/角野栄子「月が好き」

あと一日だけいっしょにいてもいい？　あなたを見ててもいい？って毎日思っていて、毎日それが最後の日まで叶ったんだから、私の人生はもう言うことないものだったんですよ。/よしもとばなな「花のベッドでひるねして」

あのパレードの紙吹雪だってもとはぜんぶラブレターだよ、降る片想い /石井僚一

あのパレードの紙吹雪だってもとはぜんぶラブレターだよ、降る片想い /石井僚一

ほんとうにあたしでいいの？ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし /岡本真帆

雨がすべてのものにぶつかる音が、やわらかく世界をおおっている。その中ではすべてが、落ち着いてやすらいでちゃんと自分で自分を支えているようにみえる。/銀色夏生「雨」

人間は常に人間を愛し、何より人間の心を愛しています。だれかとつながりたいという思いは、ずっと消えることがないでしょう。だから、永遠に文学はある。あなたのそばに。/田辺聖子「一生、女の子」

傘をさすまでもない雨　顔にあたるこの感じ微微微微微炭酸 /上澄眠

世界が私を愛してくれるので（むごい仕方でまた時にやさしい仕方で）私はいつまでも独りでいられる /谷川俊太郎「六十二のソネット」

名曲をいつか作るんだろきみは嫌いをきちんと嫌いでいてよ /岡野大嗣

わたしは　あなたになれない　そのことの　かなしみのあまり　わたしがあなたを　だきしめるとしても　わたしとあなたが　いつか　おなじひとつのりゆうで　なみだをながすとしても /谷川俊太郎「あなた」

うるせえぞおまへ、挽歌詠んだろか。花のなまへをつけてやらうか /伊豆みつ

反射する光をUFOと見間違うようにあなたに恋をしていた /加藤千恵

雨の日に暗くなるのは、部屋の中だけではありません。僕たちの心の中も、ちょっぴり薄暗くなっているものです。そんなときは、昼間から電気をつける前に、外に出ましょう。傘をさして、花を買いに行きましょう。/松浦弥太郎「雨の日は花を買う」

どこまでが梅雨どこからが涙 /北大路翼

すなわち想像力の多寡は、人間の幸不幸そのものである。小説はその大切な想像力を、われらのうちに知らず培ってくれる。/浅田次郎「読むこと書くこと」