初夏を思わせる日差しが、大地に降り注いでいた。 「もうここができて3年にもなるかな」とタクシーの年配の運転手が教えてくれた。「埋めたてを始めてから7年くらいかかったけどね。山を切り崩して、ベルト・コンベアで運んだその土で海を埋めたんだよ。」 #5月の海岸線 pic.twitter.com/sAcIDXU5P2

#村上春樹　 #5月の海岸線　 に描かれた「僕」の故郷の埋め立てられた海岸、『羊をめぐる冒険』に共通した場面がある。 その正体は、芦屋市の海岸道路沿い。芦屋川河口から夙川河口まで。 ※写真は私が撮影 pic.twitter.com/fp4fqflQin

#5月の海岸線 の「古い防波堤の名残り」は実際に芦屋浜にある風景で、『阪急・阪神沿線文学散歩』というブログに写真付きで詳しく紹介されています。 村上さんが『辺境・近境』で「モノリスの群れ」と書いた高層アパートの写真もあります。 『阪急・阪神沿線文学散歩』 seitar0.exblog.jp/239694685/

古い防波堤の名残りだけが、かつての海岸道路に沿って何かの記念品のように残されていた。もう何の役にも立たない、古びた低い壁だ。その向う側にあるものは波の打ち寄せる海岸ではなく、コンクリートを敷きつめた広大な荒野だった。 #5月の海岸線 pic.twitter.com/7MOPlDBRc8

12時30分。 おそろしく静かだ。 　ねえ、もう20年も昔になるかな、夏になると僕は毎日この海で泳いでいたんだよ。海水パンツをはいたまま、家の庭先から海岸まで裸足で歩いて通ったんだぜ。太陽に焼かれたアスファルトの道はおそろしく熱くってね、ぴょんぴょん跳びながら歩いたもんさ。 #5月の海岸線 pic.twitter.com/O9o4sJbQZu

12年前、僕は「街」に恋人を持っていた。大学の休みがやってくると僕はスーツケースに荷物を詰め、朝いちばんの新幹線に乗った。窓際の席に座り、本を読み、風景を眺め、ハム・サンドウィッチを食べ、ビールを飲んだ。「街」に着くのはいつも昼前だった。 #5月の海岸線 pic.twitter.com/GNsU6VbTi3

（短編集『カンガルー日和』に収録されている）#5月の海岸線 は『羊をめぐる冒険』の中に吸収された。『彼女の町と、彼女の緬羊』もやはり『羊をめぐる冒険』の原型となったが、この作品は『羊をめぐる冒険』の取材に北海道に行ったときに書いたものである。 「自作を語る」補足する物語群 pic.twitter.com/LERaYeOC9l

晴れわたった5月の朝、僕はアタッシェ・ケースに身のまわりの品を詰め、新幹線に乗り込む。窓際の席に座り、本のページを開き、そして閉じ、缶ビールを飲み干し、ほんの少し眠り、それからあきらめて外の風景を眺める。 #5月の海岸線 pic.twitter.com/FyZeifiUTk