何者かがひたひたと私をつけてくる。私は怖くなり友達に電話したのだがなぜか着信音がすぐ後ろから聞こえたのだ。振り返るとオバケが着信音のモノマネをしていた。#マイクロノベル

風を使用したカーテンを、行商の魔女は売っていた。目には見えないが、軽い手触りを感じる。顔を近づけると、スゥスゥと心地よい風が頬を撫でる。遮光性はないものの、私の書斎は日が当たらない。そういう場所にこそ、このカーテンは相応しい気がした。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000100

少なくとも一人は魔女を司書として雇うこと。この町の図書館には、そんな規則がある。私はだから雇われた。私の勤務場所は図書館の最上階。禁書類が配架された場所だ。ここで子守歌を歌いながら禁書の封印を守り続けている。確かに魔女にしかできない仕事だ。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000099

普通列車で旅をしている時に、箒に乗った女性が並走しているのを見たことがある。地元民らしい老人が窓を開けて、彼女からたい焼きを買っていた。あの子は魔女なんだよとたい焼きを食べながら老人は教えてくれた。魔女のたい焼き屋。微妙に新しいなと思った。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000098

古本屋の棚に魔術書ばかり並んでいる。魔女が死んで曾孫が売り払ったらしい。本をめくると色々な書き込みがしてあった。魔法の効率的な使い方を探っていたようだ。一通り見てから静かに棚へ戻した。書き込みがある本は、故人の想いが見えて、手が出しづらい。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000097

千年待ってくださいと青年は言った。森の中にある一軒家で、魔女は言われた通りに待っている。元々引き籠るのは好きなたちで、千年くらい待つのはたやすいことだった。青年の顔はすでにうろ覚えなのだが、誰であれ戻ってきたら、お帰りと言おうと決めている。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000096

#マイクロノベル　夜に散歩していると、猫とタヌキと、人間と自動車と、すれ違う。私が目視できてるのはそれだけだ。つまんないな。

彼女がピアノを演奏するスピードは速すぎて、指の動きが全く見えない。演奏中、指は違う世界を旅しているらしく、演奏を終えると、草が絡んでいたり、海水に濡れていたりする。今日は、両手の指が血塗れだったので、演奏中に何人か殺したのかもしれない。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000095

5年7月16日 光を纏って走っていく #twnovel #140字小説 #140文字小説 #xnovel #創作 #ショートショート #小説 #マイクロノベル #web小説

鞄の中に水蜜桃が入っていることがある。しっかりチャックを閉めているのに、いつの間にか入っている。どれだけ真剣に監視していても、水蜜桃はスルリと鞄の中に入り込む。だから、実は逆で、鞄が水蜜桃を産んでいるのかもしれないと、最近思いはじめている。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000094

コーヒーフロートのアイスが溶けない。ストローでコーヒーだけ飲む。水になった氷も吸い上げる。半球の塊が沈んでいく。フロート部分が底に嵌る。稜線は尚も形を崩さない。ミントの葉が所在なさげに白い表面を滑り、グラスの内側に貼りつく。ドアベルが鳴り、秋の風が吹き込んでくる。 #マイクロノベル

【ほぼ百字小説】（５４６０）　すっかり天使率が高くなった空の下を『交差点の天使』の解説を書いてくれた演出家の手掛けた芝居を観に行くその途中、玄関前に置かれた亀の水槽を見かけて、水槽に書かれていたその亀の名がトキ。『かめたいむ』だ。 #マイクロノベル　#小説

猫のぬいぐるみが詩を書いている。猫のぬいぐるみはすぐに詩を書き始める。廃墟の屋根の上に居座る猫のぬいぐるみたちは大抵詩を書いている。 「見せて」というと「完成したら」と断られる。 「いつ完成するの」と聞くと「詩が完成するはずがない」と断られる。いつもそうだ。 #マイクロノベル #小説 pic.x.com/7hjifymmfj

【ほぼ百字小説】（５４５９）　地上はまだ暑いが、空は秋になって天使率が急上昇しつつあるようで、様々な天使の部品がそこここに浮かんでいる。それらを見上げ、頭の中で好きなように組み立てていると、ほんのすこし身体が浮かぶような気がする。 #マイクロノベル　#小説

購入したペットボトルの中には、大学の友達が入っていた。水の中を静かに揺蕩っている。目を閉じ、ピクリとも動かない。慌ててペットボトルの中身を外に出すと、友達は近くの排水溝へと消えた。以来、彼女の姿は見なくなり、連絡もできなくなってしまった。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000093

シルバニアの幽霊　#140字小説　#マイクロノベル

【ほぼ100字小説_1941】 ベランダで、お母さんが太陽に両手を挙げている。慎重に手首を動かす動作は、まるで祈っているみたいだ。「冬になっても洗濯物が乾く、おまじない」母の言葉の意味がわかったのは、わたしが結婚して母親になってから。母は夏を削り、取り込んでいたんだ。 #マイクロノベル

コタツは肉食動物なので、入ってしまうと出られなくなる。中は暑く、簡単に脱水症状に見舞われて死に至る。コタツは人が死ぬとゆっくり全身を包み込み、消化する。だから、コタツのある家では、急に人がいなくなることがある。勿論、人間は何も知らない。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000092

学校の図書室には、先輩と呼ばれる幽霊が出る。水色のセーラー服を着た先輩は、図書室の窓際の席で本を読んでいる。身体は透けていて、生きていないとわかる。彼女が何を読んでいるかは、近づくとすぐに消えてしまうので謎だ。先輩は秘密が好きなのだ。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000091

図書館の本棚が増殖しているような気がする。前に来た時よりも空間が広がり、そこへ捩じ込むように本棚が置かれている気がするのだ。確証はない。司書に尋ねても、そんなことはないと言われる。だが、今日もなんとなく、本棚が増殖しているような気がする。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000090

頼んだハンバーガーの中は、都市になっていた。肉やレタスの摩天楼が立ち並び、チーズでできた空飛ぶ車が飛び交っている。店員に見せると、時々ありますが食べても大丈夫ですよと返された。仕方なく食べてみたが、確かに味は普通で、腹を壊すこともなかった。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000089

神社の夢をよく見る。気づくと、無数の下着がぶら下げられた鳥居の下に立っている。鳥居の奥には階段があり、頂上付近で灯りが揺れる。遠くから誰かの笑い声が聞こえて、目が覚める。足はいつも泥だらけになっている。だから、あの神社は実在するのだと思う。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000088

小箱の中には、白黒写真が入っていた。被写体は全て私なのだが、背景に写る建物はどう見ても昔のものだ。合成写真かとも思ったが、作る理由がわからない。他人のそら似か。だとしてもなぜ集めたのか。持主である夫は死んでいるので、尋ねることもできない。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000087

#マイクロノベル　くず餅を食べたいなとスーパーの棚を見たけれど、くす餅しかなかった。くず餅がないときだけ、くす餅が売り場にある。買ったことはない。

#マイクロノベル　車のボンネットに落ちてきた豹はケガもないようで、水を飲んで豚コマ1パックを食べたらスタスタとどこかへ行ってしまった。今夜の酢豚は肉なしだ。

No.318 言葉の乱れ (2020/03/26) #ショートショート #140字小説 #マイクロノベル #Twitter小説 #小説が読めるハッシュタグ いいね、RT、感想を頂ける場合は作品の方にお願いします🐢

女学校の美術教師は、地味なジャージを着た女性だった。やる気はなく、いつも欠伸ばかりしていた。それでも生徒から人気があった。彼女は魔女で、呪いの技術を伝授してくれたからだ。動かなくなった夫を見下ろしながら、私は美術教師にお礼を呟いていた。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000086

魔女の暦作りのバイトをしている。毎晩空を眺めながら、流れ星を数えている。魔女の暦は、毎年かなり変わるらしい。星の寿命や草木の歌が関わるから複雑なんですよと、私と同い年だという魔女は言いながら、自分で録音した草木のざわめきに耳を傾けている。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000085

5年7月15日 その家に棲むヒト #twnovel #140字小説 #140文字小説 #xnovel #創作 #ショートショート #小説 #マイクロノベル #web小説

住み始めたアパートの前の住人が魔女だったそうで、壁や床に魔法陣が描かれている。汚いし、気味も悪いので、引越し早々、全て掃除して消した。その夜から、血塗れの男が現れて私の首を締めだした。魔法陣には意味があったのかと、首を絞められながら悟った。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000084

友人の魔女が宿題を始めた。真夜中の草原に立ち、何か呪文を唱える。唱え終えた時には、周囲は氷河期の時代に逆戻りしていた。近くをマンモスらしき生き物が歩いている。この辺りにもマンモスっていたんだねと感心しながら、友人はレポートを書き始めた。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000083

隣の借家に人が引っ越してきた。名前は知らない。ブロンドの短髪が印象的な女性だ。お裾分けとして薬草をもらった。夜になると彼女は出かける。黒いマントにとんがり帽子を被り、箒を持って暗闇の中へと消える。彼女は魔女ではないかと密かに思っている。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000082

アメフラシの人形を買ったからだろうか。どんな日でも、雨の音が聞こえる。大抵は小雨。でも、時には滝のようなスコールの音がする。今日も空は晴れているが、部屋には小雨の音が響く。君のおかげかな？　心地良い雨音を聞きながら、アメフラシを抱きしめる。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000081

寄生虫の宿主となったスコーンが、自我を持ち、新たな文化を築く。スコーンは脆い。それに黄色い寄生虫に少しずつ食べられていつかは死ぬ。それでもスコーンたちは短い命を受け渡しながら、国を作りつつある。寄生虫はイヤだが、面白いので野放しにしている。 #120字小説 #マイクロノベル No.000000080

母なる惑星　#マイクロノベル pic.x.com/mavmun9j6r

まなうらのアクアリウム　#140字小説　#マイクロノベル

廃墟となったボウリング場に忍び込んで、自分でピンを立てて練習していた。ストライクを決めても喜ぶ必要もなく、ガーターを連発しても笑われる心配がないので気楽だった。 そのうち「あそこにはボウリング好きの幽霊が出る」と噂になった。残念だが幽霊なら初日に倒した。 #マイクロノベル #小説 pic.x.com/ix02yqbbbp

【ほぼ百字小説】（５４５７）　最初のドミノが倒された時点で、すべては決定されている。だから選択できるのは、最初のドミノを倒すか倒さないか、だけ。倒されれば結末まで進んでいく。もう止められない。ああ、うっかり倒しちゃったんだよなあ。 #マイクロノベル　#小説

【ほぼ百字小説】（５４５６）　開けた瞬間にもう缶詰ではなくなるから、それでは缶詰の中を見たことにはならず、だから缶詰の中を見るためには缶詰を開けずに見なければならない。いっしょに缶に詰められたのは、そんな理由らしい、と缶詰の中で。 #マイクロノベル　#小説