#魯君 の嬖人(へいじん)死す、魯君{人;じん}之(これ)が爲に誄(るい)す。魯人{君;くん}因(よ)りて説{悦;よろこ}びて之を用う。#子墨子 之を聞きて曰く、誄は死人の志を道(い)うなり。今因りて説[悦]びて之を用うるは、是れ猶(な)お來[猍;貍]首を以て服{服馬}に從わしむるがごときなり。【2】

#子墨子 は、「中国の習俗もやはり同じです。父を殺したのにその子が賞せられるのは、子を食べて父を賞するのと変りがありません。もし仁義の行いをしないならば、どうして蛮人が子供を食べるのを非難できましょうか」と答えた。【2】

#子墨子 曰く、「#鄭人 二世その君を殺して、天、誅を加え、三年全(まった)からざらしむれば、天誅(てんちゅう)足(た)れり。今また兵を挙(あ)げ、もって鄭(てい)を攻めんとして、わが鄭を攻むるは、天の志に順(したが)うなりと曰(い)う。【2】

#魯陽の文君 が #子墨子 に対し、「#楚(そ)の南に食人国があり、その国ではすべて長男が生まれると身体を裂いて食べます。そうすることが次に生まれる弟のためだというのです。しかもその肉が美味であると主君に贈り、主君が満足するとその父をほめます。まことに悪い習俗です」といった。【1】

#子墨子 曰、#鄭人 二世殺其君、而天加誅焉、使三年不全、天誅足矣。今又挙兵、将以攻鄭、曰、吾攻鄭也、順於天之志。譬有人於此。其子強梁不材。故其父笞之、其隣家之父、挙木而撃之、曰吾撃之也、順於其父之志、則豈不悖哉。【1】

#子墨子 曰く、「中國の俗と雖(いえど)も亦(また)猶(な)お是のごとし、其の父を殺して其の子を賞す。何を以てか其の子を食いて、其の父を賞するものに異ならんや。苟(いやしく)も仁義を用いずんば、何を以てか夷人(いじん)の其の子を食うを非とせん」。【2】

#魯陽 の #文君、#子墨子 に語りて曰く、「#楚 の南に啖(たん)人の國なる者あり、其の國こぞりて、長子生るれば則ち解きて之を食(くら)い、之を宜弟(ぎてい)と謂う。美なれば則ち以て其の君に遺(おく)り、君喜んで則ち其の父を賞す。豈に惡俗ならずや」。【1】

#子墨子 曰く、「夫(そ)れ天の天下を兼有するは、また君の四境の内を有(たも)つがごとし。今兵を挙(あ)げて以(もっ)て #鄭 を攻めんとす。天誅(てんちゅう)それ至らざらんや」。【1】

#子墨子 曰、夫天之兼有天下也、亦猶君之有四境之内也。今挙兵将以攻 #鄭。天誅其不至乎。#魯陽文君 曰、先生何止我攻鄭也。我攻鄭、順於天之志。#鄭人 二世殺其君、天加誅焉、使三年不全。我将助天誅也。【2】

#魯陽(ろよう)の #文君(ぶんくん)、#鄭(てい)を攻めんとす。#子墨子 聞きてこれを止め、魯陽の文君に謂いて曰く、「いま #魯 の四境の内、大都はその小都を攻め、大家はその小家を伐ち、その人民を殺し、その牛馬・狗豕(くし)・布帛(ふはく)・米粟(べいぞく)・貨財を取らしめば、いかん」。【2】

#子墨子、#魯陽の文君 に謂うて曰く、世俗の君子、皆、小物を知りて大物を知らず。今、此(ここ)に人あり、一犬一彘(てい)を竊{盗;ぬす}めば則ち之を不仁と謂うも、一國一都を竊めば則ち以て義と爲す。【2】

#子墨子 が、#魯陽文君 に向って、諸侯たちが其の鄰國を攻め、其の民人を殺し、その牛馬・粟米・貨財を奪い取り、その事績を勲功と誇り竹帛に書き、金石に鏤刻(るこく)し、銘を鐘鼎などの器物に刻み、後世の子孫に傳[伝]え遺(のこ)して、私ほど領地を多く取ったものはないと言ったとしましょう。【2】

「では、他国を併合したり、他国の軍隊を全滅させたり、他国の人民をむやみに殺したりすれば、その報いを受けるのはだれでしょうか」と、#子墨子 は問うた。 #斉の大王 は、俯(うつむ)いたり、上を仰(あお)ぎみたりして思いめぐらしていたが、ついに答えた。 「このわたしが、報いを受けるのだ」【2】

#子墨子、#魯陽文君 に謂いて曰く、其の鄰國を攻め、其の民人(たみびと)を殺し、其の牛馬・粟米・貨財を取りて、則ち之(これ)を竹帛(ちくはく)に書き、之を金石に鏤(ちりば)め、以て銘を鐘鼎(しょうてい)に爲(つく)り、後世の子孫に傳[伝]え遺(のこ)して曰く、我が多きに若(し)くこと莫(な)しと。【1】

#子墨子 曰く、「刀は則ち利なり。孰(いず)れか将にその不祥を受けん」。大王曰く、「刀はその利を受けて、試みる者その不祥を受けん」。子墨子曰く、「国を幷(あわ)せ軍を覆(くつが)えし、百姓を賊殺す。孰れか将にその不祥を受けん」。大王俯仰してこれを思いて曰く、「我その不祥を受けん」。【1】

#子墨子、#斉の大王 に見(まみ)えて曰く、「いまここに刀あり。これを人頭に試みるに、倅然(そつぜん)としてこれを断つ。利と謂(い)うべきか」。大王曰く、「利なり」。子墨子曰く、「多くこれを人頭に試みるに、倅然としてこれを断つ。利と謂うべきか」。大王曰く、「利なり」。【2】

#子墨子 見 #斉大王 曰、今有刀於此。試此人頭、倅然断之。可謂利乎。大王曰、利。子墨子曰、多試之人頭、倅然断之。可謂利乎。大王曰、利。子墨子曰、刀則利乎。孰将受其不祥。大王曰、刀受其利、試者受其不祥。子墨子曰、幷国覆軍、賊殺百姓。孰将受其不祥。大王俯仰而思之曰、我受其不祥。【1】

#鄭人 は三代にわたってその主君を殺したので、天誅が下り、三年のあいだ不作がつづいたのです。私は天誅を手助けしようとしています」と答えた。#子墨子 は、「鄭人は三代にわたって主君を殺したので天誅が下り、三年つづいて不作でありました。これで天誅は十分といえましょう。【2】

#魯陽 の #文君 は、「#魯 の国内は、みな私の家来である。いま大都が小都を攻め、大家が小家を伐ち、その貨財を奪えば、私は必ずこれを重く処罰する」そこで、#子墨子 は、「そもそも天があまねく天下を領有しているのは、やはりあなたが魯の国内を所有しているようなものです。【2】

#魯陽 の #文君 が #鄭(てい)を攻めようとした。#子墨子 がそれを聞いて止(とど)め、魯陽の文君に向かって、「いま #魯 の国内で、大都が小都を攻め、大家が小家を伐ち、その人民を殺し、牛馬・犬豚・布帛(ふはく)・米粟(べいぞく)などの貨財を奪ったりすれば、どう考えられますか」といった。【1】

#子墨子 曰く、#鄭人 二世その君を殺{弑;しい}し、天、誅を加え、三年、全(まった)からざらしむれば、天誅は足れり。今、又兵を擧げて將に以て鄭を攻めんと曰く、吾が鄭を攻むるや天の志に順(したが)うと。【1】

#子墨子 曰。#鄭人 二世殺其君。而天加誅焉。使三年不全天誅足矣。今又擧兵將以攻 #鄭 曰。吾攻鄭也。順於天之志。譬有人於此。其子强梁不材。故其父笞之。其隣家之父擧木而撃之曰。吾撃之也。順於其父之志。則豈不悖哉。【2】

#斉 が #魯 を攻めようとした。#子墨子 が斉の将軍 #項子牛(こうしぎゅう)に向かって言われた。「魯を伐(う)つのは、斉にとって大きな誤りです。昔、#呉王 #夫差 が東方の #越(えつ)を伐って #越王 #句践 を #会稽(かいけい)の地に閉じこめました。【1】

#子墨子 曰く、夫(そ)れ天の天下を兼有するや、亦(また)猶(なお)君の四境の内を有(たも)つが如くなり。今兵を擧げて、將(まさ)に以て #鄭(てい)を攻めんとすれば、天誅(てんちゅう)、丌{其;そ}れ至らざらんや。【2】

#子墨子 曰、夫天之兼有天下也、亦猶君之有四境之内也、今擧兵將以攻 #鄭、天誅丌不至乎、#魯陽文君 曰、先生何止我攻鄭也、我攻鄭順於天之志、鄭人二世殺其君、天加誅焉、使三年不全。我將助天誅也、【1】

#魯陽文君 將(まさ)に #鄭(てい)を攻めんとす。#子墨子 聞いてこれを止め、魯陽文君に謂いて曰く、今、魯陽の四境の内に、大都は其の小都を攻め、大家は其の小家を伐ちて、其の牛馬、狗豕、布帛、米粟、貨財を取らしめば、則ち何若(いかん)。【1】

#斉、将(まさ)に #魯 を伐(う)たんとす。#子墨子、 #項子牛(こうしぎゅう)に謂(い)いて曰く、魯を伐つは斉の大過なり。昔 #呉王、東の #越 を伐ちて、これを #会稽(かいけい)に閉居せしめ、西は #楚 を伐ちて #昭王 を #隨 に葆(たも)ち、北は斉を伐ち、#国子 を取りて、以て呉に帰れり。【2】

#斉 将伐 #魯。#子墨子 謂 #項子牛 曰、伐魯斉之大過也。昔者 #呉王 東伐 #越、棲諸 #会稽。西伐 #楚 葆 #昭王 於 #隨。北伐斉取 #国子。以帰於呉。諸侯報其讐、百姓苦其労、而弗為用。是以国為虚戻、身為刑戮也。【1】

#子墨子 曰く、國を幷(あわ)せ軍を覆(くつが)えし、百姓を賊殺(ぞくさつ)す。孰(いず)れか將(まさ)にその不祥を受けんとする。 大王俯仰(ふぎょう)してこれを思いて曰く、われその不祥を受けん。【2】

#子墨子 曰く、「多くこれを人頭に試むるに、倅然としてこれを斷つ。利と謂うべきか」。 大王曰く、「利なり」。 子墨子曰く、「刀はすなわち利なり。たれかその不祥を受けんとする」。 大王曰く、「刀はその利を受けて、試むる者その不祥を受けん」。【1】

#子墨子、#齊(せい)の大王に見(まみ)えて曰く、「今(いま)此(ここ)に刀あり。之(これ)を人頭に試(こころ)みるに、倅然(そつぜん)として之を斷(た)つ。利と謂(い)うべきか」。 大王曰く、「利なり」。【2】

#魯君(ろくん)が #子墨子(しぼくし)に向かって、「余(よ)は #斉(せい)が攻めてくるのを恐れている。これを救うことはできるだろうか」と問うた。子墨子はいわれた。「救うことはできます。【1】

魯君謂子墨子曰、吾恐斉之攻我也。可救乎。子墨子曰、可也。 [#魯君、#子墨子 に謂(い)って曰(いわ)く、吾(わ)れ #斉(せい)の我を攻めんことを恐る。救うべきか。子墨子曰く、可なり。]【1】

#儒者 との対話を元に #儒家批判 した「#公孟」の次の章は「#魯問」となる。 「魯問」とは #魯君 の問。本篇の首に【魯君謂 #子墨子 曰】の語があることから、篇目としたに過ぎない。それは、「#耕柱」、「公孟」の諸篇と同じである。ただ全篇ことごとくが、魯君との問答を記録したものではない。【2】

#齊、將(まさ)に #魯 を伐たんとす。#子墨子、#項子牛(こうしぎゅう)に謂いて曰く、魯を伐つは齊の大過なり。昔は、#吳王、東、#越 を伐ちて、諸(これ)を #會稽(かいけい)に棲(す)ましめ、西、#楚 を伐ちて、#昭王 を #隨 に葆(たも)ち、北、齊を伐ち、#國子 を取(とら)えて以て #吳 に歸れり。【1】

#魯君 は、#魯陽文君 で #楚縣の君 といわれるが、時代を攷(かんが)えあわせると、#魯の穆公 ではあるまいか。篇名を #魯問 というのは【魯君謂】の篇首の言葉から来ている。 魯君が #子墨子 に問うた。「吾は #齊 が我が國に攻めて來ることを恐れている。これを救う道があろうか」 「ございます【1】

#魯君、#子墨子 に謂って曰く、吾れ齊の我を攻めんことを恐る、救ふべきか。子墨子曰く、可なり、昔は三代の聖王、#禹湯文武 は百里の諸侯なり、忠を説{悦;よろこ}び義を行いて天下を取る。三代の暴王、#桀紂幽厲 は怨に讐(むく)い暴を行いて天下を失う。【1】

#告子、#子墨子 に謂いて曰く、「われよく国を治め政をなす」。子墨子曰く、「政とは口これを言いて、身必ずこれを行なう。いま子口にこれを言うも、身行なわず。これ子の身乱れたるなり。子、子の身を治むる能わず。いずくんぞよく国の政を治めん。子、しばらく子の身をばこれを乱すなかれ」。【1】

#告子 謂 #子墨子 曰、我能治国為政。子墨子曰、政者口言之、身必行之。今子口言之、而身不行。是子之身乱也。子不能治子之身。悪能治国政。子姑亡子之身乱之矣。【2】