此の篇では、#王子閭 の事に就いて論じ、仁者は必ず智あり、徒(いたずら)に公平潔白のみを以て仁となすべきでないと言う。 【執王子閭】『#左伝』#哀公 十六年の伝に「#白公 欲以 #子閭 為王。子閭不可。遂刧以兵」とあり、#杜注(#杜預 の注釈『#春秋経伝集解』)に「子閭 #平王 子 #啓」という。【1】

#楚王 に失政があると思ったら、進んで王位を譲り受けて、国を治めるべきではなかったか。また、#白公 が義をふみにじったのであれば、みずから王位を譲り受けて、白公の叛逆(はんぎゃく)を誅(ちゅう)すべきではなかったか。だから、#王子閭 の態度は、まだ仁ではない、というのだ」【2】

#王子閭 の態度こそは仁ではないでしょうか』と、#孟山(もうざん)は感心していった。 #墨子 はそれをきいて、 「なるほど、だれにもまねのできることではない。だが、それだけでは、まだ仁ではない。【1】

ところが、#王子閭 は、 『みくびるな。父王を殺したうえで、あとがまにわたしを据えれば、喜ぶとでも思っているのか。たとい天下が手に入るとしても、不義に手をかすわたしではない。まして、#楚 の一国ぐらいで、そんなことができるか』 といって、即位を拒み、毒刃にかかったといいます。【2】

弟子の #孟山(もうざん)が、#楚 の #王子閭(おうしりょ)を称賛していった。 「むかし、#白公(楚の公子、名は勝)が、楚で叛乱(はんらん)を起こしたときのこと。かれは王子閭を捕えると、胸元に白刃を突きつけて、こう迫りました。 『王位に即いていただきたい。さもなければ、いのちを頂くまでだ』【1】

#王子閭(おうしりょ)曰く、なんぞそれわれを侮(あなど)るや。わが親を殺して、われを喜ばすに #楚国 をもってす。われ天下を得るも、義とせざればなさず。またいわんや楚国においてをや。遂に死してなさず。王子閭はあに仁ならずや」。【2】

#孟山(もうざん)、#王子閭(おうしりょ)を誉(ほ)めて曰く、「昔、#白公(はくこう)の禍(わざわ)いに、王子閭を執(とら)えて、斧鉞(ふえつ)を腰に鉤(こう)し、直兵を心(むね)に当てて、これに謂(い)いて曰く、王たらば生き、王たらざれば死(ころ)さん、と。【2】

#孟山 誉 #王子閭 曰、昔 #白公 之禍、執王子閭、斧鉞鉤腰、直兵当心、謂之曰、為王則生、不為王則死。【1】